アトリビューションとメディアビジネス

アトリビューションで業界が発展する
アトリビューションコンサルティングについての問い合わせは、主に広告主と広告代理店から入ってくる。アトリビューション分析とアトリビューションマネージメントによって、コンバージョンを増加できるという期待があるからだ。そういうなかで、ときどき、媒体社からの問い合わせも来る。そのたびに、媒体社に行ってアトリビューションの説明会を行っている。媒体社は、アトリビューション分析によって、媒体の価値を高めることができないかという期待を持っているのだ。もし、媒体社にとってもメリットがあり、広告主や広告代理店にとってもメリットが出せるとすれば、アトリビューションは業界全体にとって価値があるということになる。お金が業界により多く回るようになるということだ。業界といっても、いまはインターネット広告業界が主なフィールドだが、マスメディアのデジタル化によって、今後はメディアビジネス全体に少なからず影響を与えていく可能性も秘めている。

市場の流動性を高めるには広告枠の評価が必要になる
アドエクスチェンジ(Ad Exchange)とは、もちろん、ストックエクスチェンジ(Stock Exchange)のコンセプトを模倣している。NYSE(New York Stock Exchange)などを想像してもらえば分かるが、全世界から基本的に誰でもオンラインで株式の売買ができる。指値や成行で売りと買いの注文が入り、需要と供給の変化に応じて価格がリアルタイムに動いていく。アドエクスチェンジも同様に、広告枠の売り手である媒体社と買い手である広告主や広告代理店との間で「CPMがいくらで売り」とか「買い」という注文が入り、その需給のマッチングによって価格がよりリアルタイムに決まっていく。より多くの媒体社が、より多くの広告枠を売りに出し、より多くの広告主や広告代理店が買い手として参加することによって、市場の流動性が高まる。流動性が高まるということは、すなわち、より多くのお金が循環することを意味する。結果的に、インターネット広告業界の発展に寄与することになるだろう。

市場の流動性を高めるには、より多くの参加者によって、より多くの広告枠が売買されなければならない。ヤフーのブランドパネルのような特定の広告枠だけに売買が集中しても、市場全体の流動性が高まったことにはならず、何の役にも立たない。市場全体の流動性を高めるには、個々の広告枠が個々の広告主にとって、どのような価値があるのか評価されることが必要だ。ストックエクスチェンジにおいては、個々の株式がアナリストによって評価され、その評価を参考にして売り買いの判断がなされている。アドエクスチェンジにおいても、個々の広告枠の評価が必要になる。その評価に応じて、広告主は買いか売りか(買わないか)の判断をしていく。その評価の役割をアトリビューション分析は担っている。

流動性を高める2つの理由
アトリビューション分析は、アドエクスチェンジの流動性を高めるのに大きな役割を果たしている。その理由は次の二つに大別できる。
一つは、ラストクリックベースの評価から解放されていることだ。ラストクリックで広告のCPAやROASを評価していると、リスティング広告やアフィリエイトなどの効率がよく見えてしまい、それらに出稿金額が偏ってしまう。それでは市場の流動性は高くならない。アトリビューション分析は、ラストクリックだけに偏った評価はしない。そのため、リスティング広告やアフィリエイト以外の広告も、より平等に評価でき、市場の流動性を高めることにつながるのだ。
もう一つは、ビュースルー(view-through)も評価の対象にしている点だ。バナー広告などをクリックする人は、減ってきているといわれている。そのため、クリックベースで評価することには限界があり、インプレッションベースでの評価をきちんと導入する必要がある。広告は元来、表示することに価値がある。そのため、広告を表示させることの価値が、きちんと評価されないのは大問題なのだ。テレビCMや新聞広告は、現在は、クリックできない。それでも値段がついて売れているということは、表示する(見せる)という広告の価値が評価されているのだ。ポストインプレッション効果には、認知を高めたり、好意度を高めたり、リアルの口コミを広げたり、ソーシャルネットワークで拡散させたり、あるいは、店頭に足を運ばせたりと、いろいろな効果が含まれるだろうが、そのうちの一つであるビュースルー効果を、アトリビューション分析は評価の対象にしている。アタラのクライアントでも、クリックベースでの評価に加えて、ビュースルーまで評価し貢献度を付与している。これは、第三者配信エンジンのMediaMind(MediaMind Technologies)や、同じく第三者配信エンジンのiogous mark(Fringe81)を使っているクライアントの場合だ。第三者配信エンジンを利用しないと、ビュースルーからコンバージョンまでの流入経路データを取得できない。そのため、アトリビューション分析の観点からいうと、すべての広告主が第三者配信エンジンを利用すべきだと考えている。現在、日本でも第三者配信エンジンが、かなりの勢いで普及している。今後は、ビュースルー効果まで評価するのが一般化するだろう。そうなれば、バナー広告やリッチメディア広告が、より公平に評価され、アドエクスチェンジ市場の流動性を、さらにアトリビューション分析が高めていくことになる。

「貢献と恩恵」のネットワーク、そして新しいメディアビジネスの胎動
アトリビューションは、広告市場の流動性を高めることに役立ち、そしてメディアビジネスの拡大に貢献する。そのことが期待されていて、大きな注目を集めている訳だ。しかし、最近、この流動性という論点以外でも、アトリビューションとメディアビジネスという視点で、媒体社や広告代理店の方から意見を求められることが増えた。とくに、広告代理店の中には嗅覚の鋭い人々がいて、アトリビューションで得られるデータをメディアビジネス開発に応用できないかと画策しているようである。大変申し訳ないが、具体的な話しはあまり書けない。水面下で動いている新しいビジネスの萌芽を摘んでしまいたくはないし、下手なことを書いて関係者の迷惑になってはならないからだ。ただし、自分の経験から一つの視点を紹介したいと思う。

広告主にコンサルティングをしていると、各広告主によって社内用語が異なるという事実に直面する。そのため、それぞれの広告主の社内用語に合わせて資料を作るのが普通だ。そのような社内用語として、「貢献と恩恵」、「Give and Take」、「Credit – Debit」というものがある。この3つは、それぞれ別の会社で使われている社内用語だが、ほぼ同じ意味で使われている。これが、何を意味しているのかが分かるだろうか?

旅行代理店のサイトで国内旅行と海外旅行を扱っていると、国内旅行で出稿した広告経由でサイトにアクセスし、最終的に海外旅行のコンバージョンをすることがある。あるいは、その逆のケースもある。同様に、アパレルのサイトでメンズの広告経由で流入し、レディースでコンバージョンするケース、その逆のケースがある。住宅情報サイトで、分譲マンションの広告経由で入ってきて、賃貸マンションをコンバージョンするケース、その逆のケースなど、広告主ごとに同じような事象が起こっている。「貢献と恩恵」、「Give and Take」、「Credit – Debit」とは、この事象に対する各社の呼び名だ。国内旅行での広告出稿が最終的に海外旅行のコンバージョンになった場合、国内旅行事業部は海外旅行事業部のコンバージョンに「貢献」したことになり、海外旅行事業部は国内旅行事業部から「恩恵」を被ることになる。この「貢献」のことを、別の会社では「Give」や「Credit」と呼び、「恩恵」のことを「Take」や「Debit」と呼んでいる。

この「貢献」と「恩恵」の数が同じ数になることはまずない。たとえば、海外旅行事業部のほうが、一方的に国内旅行事業部のコンバージョンに「貢献」していて、その逆は少ないことが一般的だ。つまり、国内旅行事業部側は一方的に「恩恵」を受けているという状態が恒常化していて、海外旅行事業部にきちんとお返しができていない状況になる。ここに、「負い目」や「負債」という感情が発露する契機がある。この「負い目」や「負債」は、債権者と債務者という経済的な構造を誘発し、お金の授受によって、その「負い目」や「負債」を清算するという方法に発展する可能性がある。「貢献と恩恵」を「Credit – Debit」と呼称するケースがあるので分かりやすいが、「Credit – Debit」はそもそも金融や会計用語である。つまり、お金の流れを前提としている。

アトリビューション分析をおこなっていると、このような「貢献と恩恵」の関係が見えるようになる。広告主のサイト内で起こっている「貢献と恩恵」だけではなく、インターネットの中で起こっている「貢献と恩恵」の関係性、ネットワークが明るみになってくるのだ。一般的に、媒体社は「貢献」する側で広告主は「恩恵」を受ける側だ。そのため、ここでは、広告主から媒体社に広告の売買によってお金が流れていく。しかし、現在の広告ビジネスのお金の流れでは捕捉できていない「貢献と恩恵」の関係もあることが、アトリビューション分析で明らかになってくる。流入経路のデータには、有料の流入元(広告)以外の無料の流入元も入っていて、その無料の流入元もコンバージョンに貢献していることが分かるのだ。ここには、お金の流れは発生していない。無料の流入元は、ある意味で、タダで広告主にいくらかのコンバージョンを提供している訳だ。その分のお金を請求してもいいのではないか、と考える人が出てきてもおかしくない。ちょっと分かりやすい例でいうと、フェイスブックやツイッター経由でも、かなりの数が流入してきて、最終的にコンバージョンにつながっている。このフェイスブックやツイッターの価値ってどうすればいいのか、と考えるのも同じような視点だ。フェイスブックやツイッター以外にも、もちろん、いろいろなサイトが無料で「貢献」している。それに気づいている人々がいる。アトリビューション分析で見えてくる「貢献と恩恵」のネットワークがあり、それを使って新しいメディアビジネスを作れないか、商品開発できないか、と動き出している。果たして成功するのかどうか。ハードルはいろいろとありそうだが、まずは、多くのデータを取得し、「貢献と恩恵」のネットワークをアトリビューション分析で見える化し、分析することが新しいメディアビジネスの第一歩となるのは確かだ。

アタラ合同会社
COO
有園雄一

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【アトリくんの視点】
アトリビューションは広告主への恩恵がフォーカスされがちですが、メディアビジネスへのインパクトも大きいと思います。第三者配信の再注目も大きいですね。メディアビジネス側としては、まずはアトリビューション分析のための測定ができる環境を準備するところから始まると思います。米国を見ていると、土俵に乗らないと選定されない、という状況になっているように見受けられます。

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