アトリビューション特別対談:「メディアプランニング」ではなく「オーディエンスプランニング」の時代 – デジタルインテリジェンス代表 横山隆治氏xアタラ有園

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DMPが始動!プライベートDMP構築の勢いが加速
「メディアプランニング」ではなく「オーディエンスプランニング」の時代
アトリビューションの今後を読み解く
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有園:本日は、株式会社デジタルインテリジェンスの代表取締役、横山隆治さんをお迎えして「DMP」や「DMPとプライベートDMPの違い」そして「アトリビューション」について伺います。

横山さんはインターネット広告業界の第一人者で業界をつくってきた方のお一人でもあります。常に業界のトップランナーとして新しい分野を啓蒙、確立してこられました。

横山:私は、1982年に株式会社旭通信社(現:株式会社アサツー ディ・ケイ)に入社しました。アニメに強い広告代理店です。

そこで、キリンビールさんや資生堂さん、日清食品さんといったトップブランドを担当させていただきました。CMは12本から13本くらい撮りましたし、音楽イベントやプロモーション、ダイレクトマーケティングや商品開発など、いろいろな仕事に携わりました。

最初の15年くらいは全方位でトライができました。CMを撮るにあたっては、コピーライティングの1000本ノックをやったり、マーケティング手法を駆使したりと、いわゆるマス広告のコミュニケーション開発には相当いろいろな形で関わってきました。

そんな中、1993年頃にインターネットに触れました。まだ「Mosaic(モザイク)」だった頃です。

有園:「Mosaic」をご存じない方もいらっしゃると思うので補足すると、いまあるウェブブラウザの前身ですね?

横山:懐かしいですね。当時、もちろんメールはありましたが「インターネットのなにが面白いんだろう?」というレベルの状態でした。

ある日「インターネットを使えば、この世の中で、ある分野に一番詳しい人に質問して、学生が宿題を済ませることができちゃうんだよ」と言われ、インターネットって面白いかもって思いました。もちろん、答えてもらえたらの話です。

当時は、インターネットを駆使できる人は少なかったけれど「なるほどね。それは面白い」と思いました。

有園:そうだったんですね。

インフォシークを日本に導入

横山:その頃、インフォシーク(Infoseek)を日本に導入しようという話に賛同し、自ら動きました。当時すでに、インフォシークは消費者の心理にもとづくサイコグラフィカルなターゲティングが可能でした。いわゆる行動ターゲティングです。

もともとはイスラエルで開発された技術で「セレクトキャスト」と呼ばれていました。サイトを訪れたユーザーのブラウザにクッキーでIDを振る。各ブラウザのIDごとに、あらかじめ設定しておいた440くらいのディメンションと呼んでいた興味関心のベクトルがあって、それをつけていく。

当時のサーバーは容量が小さかったので、サイトにアクセスした際に、クッキーから情報をとってベクトルをつけ、また訪問したら新しい情報ベクトルを付けることを繰り返していました。

1995年頃には、このベクトルをもとにユーザーをカテゴリー分けして、クッキーごとに広告を送り分けるという発想があったんです。

有園:そうなんですね。

横山:それと同時に、インフォシークは他の媒体も巻き込んで、自社のアドサーバーでアドネットワークができるという構想がありました。

結果的には、同じレイヤーが集まるので競合してしまいビジネスにはならなかったのですが、そうした技術はすでに持っていました。

そういう意味では、インフォシークのロボット検索エンジンは先進的でしたね。当時、ヤフーは人力でディレクトリを作っていましたし。インフォシークが標榜していたことは今のグーグルが掲げていることと同じですが、どんなにインフォシークの検索エンジンが優れていても、技術があっても、それを発揮する環境が整っていませんでした。4年から5年くらい早かったようです。

ただ、1995年頃のインフォシークとの出会いは衝撃的でした。当時のインフォシークはすでに行動ターゲティングという考えやアドサーバーの基礎技術をもっていたんですから。そこからの学びは大きかったです。その先の15年くらいの未来が見えました。

私は30年以上広告業界にいます。最初の15年はマス広告の世界にいて、そのあとの17年はインターネット広告の世界にゼロから飛び込みました。しかし、いま考えていることは17年前に考えていたことと変わっていません。昔、マス広告をやっていたことが今の仕事に活かせていますね。

有園:インフォシークとの出会いがあってDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)の立ち上げにつながるわけですね。

横山:はい。当時は広告枠を作って手売りしていました。インフォシークに最初に掲載されたバナー広告は、フロッピーディスクに入れてバイク便が届けてくれました。

有園:フロッピーディスクってのがいいですね。

横山:歴史を感じますね。ただ、いまのインターネット広告、デジタル広告も仕組みは変わっていません。広告枠を作って広告代理店の営業マンがお客さんに提案して売っています。

掲載期間が決まっていて、何を保証して、何を保証しないかを伝え「買いますか?買いませんか?」と提案しています。この方法は、いままでのマス広告の営業となんら変わりません。2012年にDSPの本を書いたのも、そのあたりに疑問を感じていたからです。

DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門
ビッグデータ時代に実現する「枠」から「人」への広告革命(インプレスR&D)

http://www.amazon.co.jp/dp/4864780013

有園:私も拝読しました。

横山:ありがとうございます。インターネット広告業界の黎明期からいるので、GoTo.comのメンバーと日本で最初に会ったのは、実は私たちだったりします。

有園:そうなんですか!オーバーチュア(現:Yahoo リスティング)の前身の会社ですね。

横山:広告枠をオンラインで、入札で買うというリスティング広告の考え方は画期的でした。ディスプレイ広告も枠ではなく、いちインプレッションずつ買えますと。広告枠が手売りからの脱却です。

有園:画期的なビジネスモデルですよね。

横山:広告を売る側も人数に限りがありますし、オンラインで管理できると効率的です。この市場が大きくなれば効率化のニーズはますます高まります。そういう意味でも画期的なものが出てきています。そして思うのが「やっぱデータだな」ということです。

有園:オーディエンスデータということですかね。

横山:そもそも、ユーザーを特定することだけではありません。変数はいっぱいあります。広告の掲載場所が良いかどうか、どのようなタイミングで掲載するのが良いかなど。広告配信の統合プラットフォームであるDSPを使って自社でデータを格納するようになると、あらゆる広告配信に対する評価を自社データに取り込みたくなるはずです。

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2013年の広告業界予測

有園:あらためで伺います。横山さんはご自身のブログ「業界人間ベム」の中で2013年の広告業界予測として7つの出来事を予測されています。そのうち「DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)が始動する年」「オーディエンスデータプランニングが試行される年」になると書いていらっしゃいます。

私もこの記事を読んで今後は「メディアプランニング」ではなく「オーディエンスプランニング」が必要になると感じました。いま私がやっている仕事は「メディアプランニング」です。メディアの広告枠や広告クリエイティブに対してアトリビューションを実施しています。

でも、今後はオーディエンスに対するアトリビューションが必要になると考えていて、それが私の仕事になると思っています。

アトリビューションの流れを整理すると、DMPが出てきたことによってデータに紐づいたセグメント単位の分析が可能になります。ヤフーのブランドパネルを買った際、あるセグメント、あるオーディエンスには効果があるけれど、他は効果がないといったことが起きます。

そこを検証するために、メディアとオーディエンスの掛けあわせでアトリビューションをやらなければならない時代になっていくと考えています。

横山:まさに、おっしゃるとおりですね。プライベートDMPという言葉も聞きますが。ファーストパーティクッキーだけを見たのでは、訪れたことは分かっても、どのページとどのページを見たお客さんか、くらいしか分かりません。それだけでは大した分析もできません。

だから、プライベートDMPをつくって、サードパーティのデータとシンクロさせ、デモグラフィーを見るのは当然だし、どんな関心のある人なのかを分析して、そこからセグメントしていくことが大切です。そうすると、自分たちのお客さんが、どんな人たちであるか具体的になり、この人たちに合った広告を出したいなって考えることができます。

枠自体もオーディエンスデータで評価されるようになるでしょう。しかも、その評価はクライアントごとに異なります。

ヤフーのブランドパネルは、A社のお客さんはたくさんいるけれど、B社のお客さんはあまりいないといった評価も出きるでしょう。アトリビューションも、単純に枠を評価するのではなく、クライアントにとって欲しいオーディエンスがいる枠なのかどうかを評価することになると考えています。

有園:そうした話は、まだ誰もしていないので、ぜひお聞きしたいです。

「メディアプランニング」ではなく「オーディエンスプランニング」

横山:いままで、私が何をやってきたかと言うとメディアレップというビジネスモデルです。2万から3万もの広告メニューをデータベース化してきました。

そのなかには一度も買われたことがない広告メニューもかなりあったでしょう。メディア本部のメンバーが媒体社と相談しながら広告メニュー枠をアップデートして、営業本部のメンバーがPDCAを回しながら提案してきました。

枠を導入してみないと結果は分からないので、CPAなどを基準に枠を評価し、比較的良くない枠は排除、新たな枠をもとめてトライすることの繰り返しでした。

PDCAを回すなかで「同じ広告枠なので、オーディエンスも毎回同じなのでしょうか?」と聞かれると「そうとは限らない」という答えになります。

いつ、どんなタイミングで広告を打ったかによって効果は変わり、実は枠という概念でひとくくりにできないんです。だから「そのPDCAは現実に合っているのか?」という疑問が生まれました。

オーディエンスデータを使って広告をプランニングしたほうが良いことは、概念としては分かっていても、実行するのは大変です。そもそも、ブランドのユーザーを深く理解して、ユーザーのプロフィールが頭に入っていないとできません。「日々、そういう作業をしているのか?」と聞かれると、できている人は少ないでしょう。

そもそも、メディアレップの人間だとクライアントと直接インターフェースしているケースが少なく、ユーザーのプロフィールを共有できていなかったり。クライアント自身も、自社のブランドのオーディエンスはどんな人で、その人たちに何を当てたらいいのか具体的に把握できているケースは少ないでしょう。

有園:検証できていないケースはとても多いですね。

横山:自社のブランドを知りつくし、正しくセグメントをかけてターゲティングできる担当者は、なかなかいないと聞きます。

「このブランドには、この枠が合う」という判断には慣れていても、フェイスブック広告のターゲティングの仕組みを理解して取り入れられるような人は少ないみたいですね。広告を配信する対象ユーザーそのものをセグメントするということですね。

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DMPって何?

有園:そこでお聞きしたいのですが、そもそもDMPって何でしょうか?しっかり理解できていない人は多いと思います。

横山:DMPとは、データ・マネージメント・プラットフォームのことで、2種類あります。

1つめが、データを売る、オーディエンスデータセラーとしてのDMP。2つめが、広告主が自らデータを格納し、分析して施策につなげていくプライベートDMPです。

重要なのは後者のプライベートDMPですね。ビッグデータ時代は、プライベートDMPの構築がマーケティングの主流になると思います。

アメリカにブルーカイ(BlueKai)という会社があります。ここは、インターネット利用者の情報を収集して、クッキーなどのオーディエンスデータを販売している会社です。

アメリカと欧州では個人データへの考え方が異なります。アメリカはビジネス主導なので産業がおこりやすく、インターネット利用者情報の売買も盛んですが、欧州は慎重です。

有園:アメリカとヨーロッパの個人情報に対する考え方や文化みたいなものに違いがあります。

横山:かなり昔に、アメリカの大手インターネット広告会社であったダブルクリック(DoubleClick)(グーグルが買収)がアバカス(Abacus)というリスト会社を買収したことがありました。

ダブルクリックはクッキーでサイト訪問者を追跡していたので、アバカスが収集したリストの中にある通販カタログサイト訪問者のクレジットカード利用履歴から氏名や住所を把握してダイレクトメールを送ろうとしました。その計画を知った当時のアメリカの消費者団体がプライバシー侵害だと猛反対した結果、計画は中止となりました。

そのような出来事がありましたが、いまではビジネスとして成立しています。誰に広告を配信したら良いのか考えたとき、個人のプロフィールを活用するビジネスモデルが、ここ3年くらいで隆盛しています。ブルーカイといった会社の誕生も後押ししています。

日本では、サードパーティのオーディエンスデータを広告配信に活用するくらいは実現できています。でも、アメリカはもっと先を進んでいます。ただ、日本円で100億円くらいの市場なので、今後、劇的に大きくなる市場でもなく、アメリカではブームが落ち着き始めた印象を受けます。

そこで、新たに出てきたのがプライベートDMPという考え方です。クライアントが自らデータを格納して分析し、広告主企業独自のDMPを構築しています。自社のウェブサイトに訪れたユーザーのファーストパーティクッキーを格納し、サードバーティクッキーとシンクロさせて分析するケースも増えています。

ダイレクトマーケティングをやっていれば、CRMデータもそこにマージしたり、配信した広告の対象となったクッキーやリアルの広告やPOSデータなども取り込めます。

アメリカでは、どのデータを、どのように使うかは考えず、まずはデータを取り込んでおいて、何をするかはあとで考えよう、といった感じで動いている企業が多いです。

アメリカ人の発想はざっくりしているので、これもアリでしょうね。日本人の発想とは少し違いますが、アメリカらしいコンセプトのマーケティングツールが次から次へと誕生しています。

日本は、プライバシーの話題が精緻化されていないので、みんな、おっかなビックリしながら始めています。アメリカは、一気にガーッと始めて広がっています。欧州は、かなりシビアです。

そんななか、今後日本はどうなるかと言うと、お国や役所がすべてを決められることでもないので、スタンスが不明確です。DMPでとれるデータは逆引きしても個人を特定できる情報ではありませんが、世の中を納得させられる状態にはなっていません。

日本の場合、企業の中にファーストパーティクッキーを格納できることを、どう考えるかが問題になると思います。

「ファーストパーティクッキー」と「サードパーティクッキーと」とは?

有園:「ファーストパーティクッキー」と「サードパーティクッキーと」いう言葉があります。

広告主のウェブサイトを訪れた人に付与するクッキーをファーストパーティクッキーと呼び、媒体など自社以外のウェブサイトを訪問したときに付与されたクッキーは、自社のものではないのでサードパーティクッキーと呼ぶ。そのような理解でよろしいですか?

横山:はい。

有園:自社ウェブサイトを訪れたときに付与されたクッキー、つまりファーストパーティクッキーに、CRMや顧客DB、メルマガDBなどを連結する動きは、実際におこっているのでしょうか?

横山:おこっています。サードパーティクッキーの販売には、日本市場は神経過敏ですが、切り離して考えなければならないことがあります。それは、ユーザーがウェブサイトを訪問したからには、その企業のことやサービスについて知りたいと思っているし、企業もユーザの期待に応えられるよう情報を提供しなければならないということです。

上手にコミュニケーションを図っていかなければならない。ミスマッチを防ぐためにクッキーを利用するんです。

それと、一方的に広告を見せられるために自分の情報が売られていることとは、目的が違うので分けて考えなければなりません。だから、日本ではプライベートDMPの方が受け入れられやすいと思います。

ビックデータを取り扱い、ユーザーをきめ細かくセグメントしても、そのユーザと興味関心を一対一で紐づけることは難しいでしょう。ただ、このユーザーにはどのタイミングで何をすると効果的だといったタイミングのマーケティングなどは、ビックデータを使うことによって可能になります。

自動車や保険、住宅は購入までの検討期間が長いので、人に紐づくターゲティングは合うと思います。一方、消費財などは、人を突き詰めても効果がないかもしれません。100万人の行動を見ると特定の傾向が見え、その情報をもとにコミュニケーションを図っていくとうまくいく商材には使えますね。

有園:夕方、食べログを見ている人にはウコンの広告を出すと良いですね(笑)

横山:夜から飲みに行く可能性が高いからね。それは私たちが連想できる範囲だけど、ビックデータを使うと人間の頭脳では絶対に連想できない相関が分かるようになります。それがビックデータへの期待ですね。

プライベートDMPの日本での広がり

有園:DMPデータをマーケティングに取り込んだり、プライベートDMPを構築したりする際、企業には何が必要ですか?

横山:変革ですね。従来の組織体制ではできないので変革が必要です。DMPは新しい取り組みなので、最初は、情報システム部門から数名、マーケティング部門から数名、広報部門から数名、商品開発部門から数名といったように、主要な部署から人材を集め実験的に取り組むことになるでしょう。

DSPを使うかどうかは担当者が判断できても、企業がプライベートDMPを構築するかどうかは経営判断になります。

有園:プライベートDMPを作るのって大変だと思いますが、日本でも広がっているんでしょうか?

横山:少しずつ増えていくと思います。この話をすると必ず、組織論や人材育成論などにつながります。座学の研修で知識を身につけてマインドセットした先で、一定の知見以上のものを共有することになると、組織を変える必要がでてきます。社内でプライベートDMP構築に向けて盛り上げるために何かしないとダメです。

デジタルマーケティングへのシフトを強化している企業は多く、もっとドライブさせようという気持ちは高まっています。マグマが吹き出しそうになっています。熱意のある現場が経営陣を動かしているムーブメントを感じます。

有園:熱いですね。

横山:DMPをやるには、組織間をまたぎ、各部署の連携が必要不可欠です。ですから逆に組織がガガッと変わるいいチャンスだと思います。

アメリカのCMOのような人材は日本の企業にはいません。CMOに5つの機能があるなら、複数人でCMOの5つの機能を果たせばよいんです。日本に合った形で広まっていくと思いますよ。

有園:横山さんが開催しているDMP勉強会では、どのようなことをやっているんですか?

横山:日本におけるDMPの仕組みやデータの取り扱いについて、導入を検討している企業へ説明する場です。DMPという装置、器をゼロから作るとお金がかかるので、多くの企業はどこかのデータ格納装置を利用することになります。

どこのテクノロジーやサービスを使うのが良いかを含め、DMPの構造や実際に動かしたときに想定される問題などを勉強しています。

コンバージョンが4倍に!

有園:私も住宅情報系のクライアントから、プライベートDMP構築の相談を受けました。すでに近いことはやっているんです。

自社サイトにきたクッキーの情報をためて会員IDをつけ、CRM側のIDと紐づけています。メールアドレスや過去のコンバージョン履歴、最近いつコンバージョンしたか、この一週間で3回コンバージョンしているといった情報と紐づけ、メールを送る際にセグメントして使っています。

いままではほぼ一斉配信していたけれど、いまは蓄積したデータをセグメントしてメールを送り分けています。ウェブサイト内で何度も検索しているけれど、まだコンバージョンしていない人といったように自社サイト内での行動履歴を元にして詳細にセグメント化して、その人たちの背中を押すようなピンポイントのメッセージを書いたメール原稿を100パターンくらい用意しています。

ウェブサイトもクッキー別に、メッセージを一部枠で出しわけています。たとえば、前回のサイト来訪時に渋谷の賃貸物件を探していた人(クッキー)には、次の来訪時には、渋谷の賃貸物件の情報を優先的に表示します。あと、DSPとつないでバナーの買い付けにも活かしています。

メールを送ったけれど開封していない人には、次はバナーを配信して追いかけるといったことをやっています。クライアントはコンシェルジュと呼んでいて、ユーザーのステージごと、セグメントごとに最適なコミュニケーションが実現できています。

サイトに訪れたユーザー(お客様)に適切なコミュニケーションをしておもてなしをすることで顧客満足度が高まって、クライアントの売上も上がっていく。コンシェルジュサービスをウェブ上で実現させようというコンセプトです。

びっくりしたのは、設定した目標値の4倍のコンバージョンがとれているセグメントがあるんです。100パターンのうち20パターンは実際に動き始めていて、かなり良い効果がでています。セグメントは簡単に1万通りなど作成できます。

理想的には、すべてのセグメントごとに異なるコミュニケーションシナリオを、オウンドメディア、メールマーケティング、バナー広告、リスティング広告などを連携、横断する形で作成し、出し分けていきます。

ただ、人間の作業の限界で、1万通りのセグメントがあっても、すべてのコミュニケーションシナリオを作って実施に移すのが困難なので、実験的に100パターンを作り実施に移しています。

従来、セグメント別のコミュニケーションは人間の頭の中で考えていましたが、ビックデータを解析する中で新しいシナリオを発掘することが増えるのではないかと考えています。

横山:最初はルールベースで考えて検証しないとダメですね。

有園:この取り組みは、とても大変でした。私はコンサルタントとして入っているので大枠を描けばよいのですが、実行する現場の方は大変だったと思います。でも、結果的に4倍のコンバージョンがあったので「やって良かったね」ということになりました。

実は、現場でも「セグメントを分けたからといって結果は変わらないのでは?と」いった反対勢力もいましたが、そうした人たちも納得せざるを得ない結果が出ました。

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DMPが成功する企業の特徴

横山:新しい概念のスキルセットが必要ですね。データサイエンティストという言葉もよく聞きます。企業内に最低でも1人は、データをマイニングしたりセグメントしたり、当たるセグメンテーションのできる人が必要ですね。テクノロジーをオペレーションするだけでなく、コミュニケーション全体のディレクションが出来る人も必要です。

有園:マッピングというか、全体のセグメントルールを最初に考えて決めておくと、そのあとが楽です。

さきほどのクライアントとの取り組みでも、自社のお客さんを大きく8つのステージにわけて、サイト内での行動履歴やどういう検索キーワードを使っているのかなどをもとに、マッピングするのに時間がかかりました。でも、最初に指針を作っておくと、その後の施策がぶれません。

ビックデータをマイニングしていくのも、その後に誰かが絵を描いて、誰かが絵の検証をする形でPDCAを回していく形になると思います。すべてをコンピューターが自動化してくれる時代はおそらく来ないでしょうから、やはり、人間の手がやらなければならない部分は多いです。

クライアントとも、今回の取り組みはプライベートDMP構築の一歩になったと話しています。

横山:プライベートDMPの構築方法は、企業のブランドや商品カテゴリーによって異なります。構築することによって何が解決できるかはやってみないと分かりません。

でも、何が解決できるかを立証しないことには経営陣も判断できません。ですから、まずは世の中にあるツールやテクノロジーを活用して、やってみてほしいですね。

有園:私のクライアントのケースが成功した理由は、社内にエンジニアがたくさんいて、企業規模も大きすぎず小さすぎず、インターネットへの取り組みが積極的だったことが大きいと思います。チームを作って取り組みやすい環境でした。

横山:日本の場合、いわゆるIT投資が業務管理に集中しています。基幹システム、業務管理システムを運用している情報システム部門は守りの部門です。守りの仕事をしている人たちはマーケティングのような攻めの思考ではない。

一方、マーケティングの人たちはテクノロジーに弱い。営業とマーケティングから情報システム部門に移る人は滅多にいないですね。最近うまくいっているのは、情報システム系からマーケティングや広報部門へ移ったケースですね。

ITリテラシーがないとマーケターは成立しない時代にきています。大会社になると、情報システム系の人はITリテラシーが高いけれどマーケターやブランド担当者が何を考えているのか分からず、マーケターやブランド担当者はITリテラシーに弱いというジレンマがあります。

広告代理店の役割

有園:広告代理店と広告主の会話もかみ合わなくなっていると思います。広告代理店はメディアプランニングをするけれど、広告主は「こういうターゲットオーディエンスにリーチしたいがどうすればいいか?」と質問する。質問と答えがかみ合わないように思います。

広告主は必ずしもメディアを買いたい訳ではないですよ。どういうオーディエンスセグメントがいる媒体かが大事で、クライアントのターゲットにマッチしているかです。広告代理店も、これまでのままではだめですよね。

横山:欧米ではすでに手を打っていますね。大きな広告主は、広告データを自社で蓄積し、競合しない企業同士でデータの交換もしています。許諾の問題はありますが、一社でやっているよりは大きな枠組みの中で取り組んだほうがよいです。

そこで問題となるのが、それを誰が束ねるかです。

有園:広告主同士がエクスチェンジするのは想像しづらいですね。誰かが仲介するのではないでしょうか?

横山:ヤフーとCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)は提供業者だけど、競合しない企業同士がエクスチェンジしています。

有園:あ、そうか。ヤフーIDとTカードの関係ですね。

横山:広告代理店が間に入る必要性はなくなっています。

有園:大手広告代理店はDMPを持たなければならなくなっているのでしょうか?「メディアプランニングではなくてオーディエンスプランニングができないと困る」とクライアントに言われる時代がきています。

横山:持っていないよりは、持っていたほうが良いでしょうね。ただし、クライアントが個々のDMPでセグメントできるようになると、そこに広告代理店が働きかけられるかというとかなり難しいです。

広告代理店が、広告の配信先のタイミングやクッキーを提案して優位性を保てるのは中小の広告主に対してだけでしょう。

有園:プライベートDMPは企業ごとにカスタマイズしていく必要があるゆえ、広告代理店が個別に対応するのは難しくなりますね。

横山:広告代理店がDMPを作って、その投資が回収できるかは疑問です。

有園:広告代理店はメディアプランニングのままではダメなら、次にどうしたらいいのでしょうか?

横山:DMPが分からないとついていけなくなるので相当学習しないとダメですね。

企業はプライベートDMPが高機能化していくと自社で完結できるようになります。企業は、発注先の広告代理店にデータがたまるよりは、データも自社に蓄積できるものを使いたくなるのは当然です。結果、広告代理店の価値は低くなるでしょう。

有園:業界に革命がおこりますね。

インハウス化の勢いが止まらない

横山:電通が2013年2月21日に発表した「2012 年(平成 24 年)日本の広告費」でも、インターネット広告媒体費の小分類が変更され、検索連動広告を含む広告配信の新手法を包含する「運用型広告」というものが新たに設定されました。

手売り型と枠ものを分けて考えるようになった、つまり違う仕組みとして切り分けられたわけです。インターネット広告費8,680億円のうち、運用型広告費は3,391億円です。

いままでは、枠ものだったから広告代理店が間に入っていたものも、企業によってはインハウス化して自社でやるようになりました。仕組みが変わり始めています。

有園:私がグーグルに在籍していた頃の話ですが、アドワーズ広告の売り上げの半分は広告代理店が介在していませんでした。いまも大きく変わっていないでしょう。

横山:大手広告主も自社で管理したほうが良いという考えが強いです。

ブランドごとに代理店に任せると、同じ会社で競争入札がおこることがあってナンセンス。ブランド横断管理が必要になっています。全部任せられるハウスエージェンシーがあればいいけれど、ブランドごとに競合コンペにかけて采配を振るモデルだと横串したければインハウス化しかないということになります。世の中が変わっていきそうです。

でも、人材や能力が余っているわけではない。そこでオススメしているのは、一回は自分でやることです。そうすると運用の勘所が分かって外注のディレクションがしやすくなります。

インハウス運用も全部自社でやるか、ディレクションは自社でやってオペレーションは任せるという方法もあります。オペレーションだけお願いするケースは増えていきそうです。

そのような状況下で、広告代理店がどのような価値を生み、アピールしていくかは注目ですね。オペレーションだけ受けるのは苦しいでしょう。

有園:プライベートDMPをつかってセグメントを細かくやるのは広告主でもやれると思います。でも、そのセグメントに対して、どういうシナリオで、どういうコミュニケーションをあてていくかは広告代理店が得意であるべきですね。

横山:そうなんだけど、そういう訓練をどこで積むかですね。いまの広告代理店の中で、そのような訓練ができる会社はなさそうです。

オーディエンスアトリビューションが必要

有園:最後にアトリビューションの話を伺います。こういう動きがあるので、オーディエンスという切り口でのアトリビューションが必要になると感じています。

横山さんのブログ「業界人間ベム」でも2013年は「オーディエンスデータプランニングが試行される年」になると書かれているとおり「枠から人へ」大きなパラダイムシフトがおこなわれると思います。

オーディエンスプランニングはメディアプランニングと対峙する考えです。アトリビューションは流行っていますが、基本はメディアのアトリビューションをしています。メディアアトリビューションとオーディエンスアトリビューションの両輪で走ることが大事なフェーズになるのではないかと考えています。

横山:オーディエンスをセグメントして、どう価値をつけるかがポイントです。キーワードごとにCPCを設定しているように、オーディエンスごとに使う予算を決めるイメージです。

有園:ヤフーのブランドパネルは効果がなかったよね。没。ではなくて、Aというセグメントではペイしなかったけれど、Bというセグメントではペイできたから、Bは買い付けの金額を高くするといった検証が必要になってくるでしょう。私のクライアントは、そのことに気付いていて動き始めています。

横山:セグメンテーションと実行から管理までをつなぐ具体的なソリューションイメージができると、あとは実行するのみですね。

オフラインのアトリビューション動向

有園:オフラインのアトリビューションは、いまどのような流れがありますか?

横山:企業の関心は高いです。とくに、リアルなチャネルでビジネスをしている企業の関心が高いです。

リアルなチャネルからソーシャルやオウンドメディアのゴール、たとえば物が売れるとか送客できているといったゴールへのつながりがあって、そこに一定の価値を見出して強化を考えている企業も多いです。

昔だったら何億円もかかるようなツールでなければ分析できなかったことが、一桁、二桁も安いコストでチャレンジできるようになりました。たくさん広告費をつかっている企業ほどコスト削減、効果増大を実感しています。

外食チェーンが天候などの変数で重回帰分析して食材の仕入れをしています。そこで培ったノウハウが広告費の最適化に活かされ始めています。

ベースライン、広告では説明のつかないラインを認識して、どこで刈り取りたいか、施策をどこで打つかといったタイミングを踏まえてキャンペーンを設計し実行できるようになりました。

その結果、経営のPL部分でも期待が高まります。

有園:オフラインのアトリビューションをすると、結果的にビジネスのアトリビューションをしていることになるんですね。スマートテレビの導入でテレビ視聴行動からオフラインのリアル店舗の購入の流れまでもが測定できる可能性がでてきますね。

横山:オンラインでテレビの視聴データまでとれるようになります。テレビを見て触発されることはとても多いです。どんな衝動が起きる兆候が何かをビッグデータから予測して広告をユーザーごとのタイミングでプッシュする。こうしたことが意図的に仕掛けられるようになるでしょう。次世代のタイミングのマーケティングです。

ビールの広告を金曜日の夕方に配信するのはマスのマーケティング。今後、個々消費者のタイミングが計算されて施策に反映される個々のマーケティングが増えるでしょう。5年以内に、適切なタイミングで広告が配信されるようになると思います。

有園:ますます面白くなりますね。引き続き、横山さんには業界のトップランナーとしてリードしていただければと思います。本日はありがとうございました。

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【アトリくんの視点】インターネット広告を黎明期から見て作ってきた横山さんですから、歴史的な流れでDMPを語っていただき深みを感じます。社内データ資産をマーケティングに融合するIT機動力のある広告主がプライベートDMPの構築に先鞭をつけ始めていて、オーディエンス視点でのマーケティングが加速しようとしているのですね。アトリビューションで最適化する対象も枠から人へと変わっていくのももはや先の話ではないですね。今は広告主も代理店も媒体社も多くを学びつつ、それぞれ来るべき変化に対して準備を推進するフェーズでしょうか。大きく、かつ、とてもエキサイティングな業界の変化ですね!ありがとうございました。

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