テレビCMに検索キーワードが入るまで、そして、そこから学んだこと(前編)

この7月まで「MarkeZine(マーケジン)」で連載記事を書いていました。その連載の最後に書いた「テレビCMの投下量と検索数、そして売上げとの相関関係は?オフラインアトリビューションの基本【アトリビューション編:第6回】」という記事に関して、いくつか問い合わせや質問を頂きました。

自分としては、そんなに質問がくることは想定していなかったので少しビックリしていたのですが、ちょうどそのとき、ある総合広告代理店の人から「この記事の中で取り上げられたテレビCMと検索数の相関についての問い合わせは、いまだに広告主から多いのだが、総合広告代理店の中に検索からテレビまでを語れる人材が育っていなくて少々困っている」という話を聞きました。

そこで、私自身の経験から、マス広告と検索の相関に興味を抱いたきっかけや、そこから学んだことなどを書いてみたいと思います。

ひらめきは「ど忘れ」から

最初にこのアイデアを思いついたのは、ある体験がきっかけです。ある日、朝起きてすぐにパソコンに向かってインターネットをしていました。たぶん、二日酔いだったと思うのですが、頭がボーッとしている感じでした。

そのとき、関係者の方には大変申し訳ないのですが、「au」あるいは「KDDI」という名前を失念してしまい、なかなか出てこなかったのです。「あれ、あれだよ」と心の中で叫んでも、脳のシナプスがつながっていない感じで、思い出せないのです。思い出せないことにイライラしながら、とっさに思いついたのが「仲間由紀恵 ケータイ」というキーワードで検索することでした。

「仲間由紀恵 ケータイ」で検索

たしか、2002年のことだと思います。当時は、仲間由紀恵さんがauのテレビCMに出ていたんです。だから、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索すれば、そのテレビCMの広告主であるauかKDDIのウェブサイトが検索結果に出てくるだろうと期待しました。つまり、検索すれば「仲間由紀恵さんがテレビCMに出ているケータイブランド」を探せると思ったのです。

ところが、Googleで検索しても、Yahoo!Japanで検索しても、検索結果の1ページ目には出てきません。2ページ目に行っても、3ページ目に行っても見つかりません。やっと、5ページ目ぐらいになって、ちょっとだけそれらしき情報が出てきて、「あっ、そうだ。auだ」と思い出すことができました。

検索しても出てこない

このとき、自分が最初に思ったのは、「あー、残念だな。検索エンジン対策、ぜんぜんできてないな」ということでした。

ブランド名を失念してしまった自分が悪いのかもしれませんが、検索してもなかなか欲しい情報に辿り着けなかったことで、私はかなり気分を害していました。その結果、KDDIに対してマイナスイメージを持ったのです。「せっかく、こっちが検索して探しているのに、こんなに時間をかけないと見つからないなんて」と。

そして、次の瞬間。「同じような検索行動をしている人は他にもいるのではないだろうか」「テレビCMやその他の広告で得た情報やイメージを基にしてそのブランドを検索する人は他にもきっといるハズだ」。そう思ったのです。

テレビCMで検索ボックスを表示する

そのときです。テレビCMで検索ボックスを表示してキーワードを訴求すれば、そのキーワードを見て検索する人がいるのではないだろうか?同時に、検索エンジン対策として、そのキーワードでリスティング広告やSEOを施しておけば、検索した人を確実にウェブページへ誘導することができるのではないだろうか?と思いついたのです。

そうすれば、自分と同じようにテレビCMで得た情報に基づいて検索した人が、そのブランドのウェブサイトが見つからずにイライラすることもなくなるのでないか。それに、ブランド側もイメージを毀損せずに済むハズだ。ブランドに関連するすべての情報で検索エンジン対策を施せば、自分が経験したようにユーザーにイライラされて悪いイメージを持たれずに済むだろう。

このようにして、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したことをきっかけに、テレビCMやその他のマス広告に検索ボックスを入れるというアイデアを思いついたのです。

リスティング広告の知名度ゼロ時代

当時はまだ、リスティング広告について知っている人が少なかった時代です。

私は1990年代後半からサンフランシスコにあるインターネット検索ディレクトリの会社で働き、2000年に日本へ戻ってきたあともインターネット広告関連の仕事に携わっていました。そのため、日常的に仕事でもプライベートでも検索エンジンを使っていました。

それまでの経験から、「リスティング広告は必ず普及する」と思い、近いうちに、オーバーチュア株式会社(現、ヤフー株式会社)かグーグル株式会社に転職したいとも考えていました。

そのため、リスティング広告のことも、アメリカのウェブサイトなどを読んで独学していたのですが、実際に、その後、オーバーチュアとグーグルで働くことになり、テレビCMの投下量と検索数の相関調査の仕事をし、そのような企画に関わるようになるとは夢にも思っていませんでした。

つまり、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したときは、思いつきレベルでアイデアは浮かんだのですが、それを実現させようという意図はなく、しばらくは、すっかり忘れていました。

オーバーチュアに転職

私はその後、縁あってオーバーチュアに転職し、リスティング広告の拡販に従事するようになったのですが、ある総合広告代理店に対する営業を担当するまでは、そのときのアイデアを思い出すことはありませんでした。

オーバーチュア入社後しばらくして、総合広告代理店の担当営業になりました。総合広告代理店にリスティング広告を売ってもらうのが自分の仕事になったのです。2004年のことです。

リスティング広告を売ってもらえない!?

当時の総合広告代理店は、リスティング広告に限らずインターネット広告自体を積極的には取り扱っていませんでした。そのため、いくら説明して回っても、一部の人にしか興味を持ってもらえません。なかなか理解を得られません。総合広告代理店は何千人ものスタッフを抱えています。すべての人に説明して回るのは不可能に思われました。

「どうしたら、この人たちに興味をもってもらえるのだろう?」「どうやったら、この人たちにリスティング広告を売ってもらえるのか?」そのようなことを考えるのが日課になりました。

マス広告とリスティング広告のセット販売

そのときに、彼らが得意とするマス広告、とくにテレビCMとリスティング広告をセットで販売してもらえたら楽なんだけどな……という考えが浮かんだのです。そして、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したときの、あのアイデアを思い出したのです。

すぐに企画書を書いて、オーバーチュア社内で同僚や上司に見てもらいました。後になって、「マス連動」とか「テレビCM連動」と呼ばれるようになったのですが、そのときの企画書には、「テレビCMとリスティング広告のセット販売企画商品の開発について」というようなタイトルをつけた記憶があります。

そのようなセット販売を総合広告代理店にしてもらうには、テレビCMの投下量(具体的には、GRP:Gross Rating Point)と、そのテレビCMに関連するキーワードの検索数に正の相関があることを示さなければならないと思い、その相関関係を調査することも、企画書には入れておきました。

その調査でうまく正の相関が示せれば、テレビCMでキーワードを訴求すると同時にリスティング広告を広告主に買ってもらうというセット販売が可能になり、オーバーチュアの売上も上がるだろうと考えたのです。

それに、テレビCMと一緒にリスティング広告を語ることによって、総合広告代理店の人たちがリスティング広告に興味を持ってくれるかもしれないと、少なからず期待を抱いていました。

テレビCMを30本分析

オーバーチュア社内では上司からすぐにOKがでたので、アポを取り、企画書を持っていきました。どんな反応を示されるかまったく読めなかったので、内心はドキドキしていました。企画書を総合広告代理店のある方に見せたところ、「これは面白いかもしれない。ちょっと待って、メディアマーケにこういうのに興味がありそうな奴がいるので呼んでくるから」と言われ、しばらくすると、そのメディアマーケティング部の人を連れて会議室に戻ってきました。話はトントン拍子で進み、簡易的な調査をすることになったのです。

調査はまず、メディアマーケティング部の人が検索を誘発しそうなテレビCMを、たしか約30本選んでくれ、それらをすべて私が視聴することからスタートしました。

一般の視聴者がそれぞれのテレビCMを見たときに、検索しそうなキーワードをリストアップしていきました。だいたい、1つのテレビCMに対して30個から50個ぐらいのキーワードをリストアップしました。

たとえば、その企業名、ブランド名、サービス名、商品名、キャッチコピー、出演しているタレントの名前など。それらを掛け合わせたキーワード。それらの打ち間違いや変換ミスのキーワードなどです。

回帰分析で検索数とGRPの相関を調査

そして、リストアップしたキーワードの検索数を日別でオーバーチュアのデータベースから抽出し、調査対象のテレビCMのGRP日別推移データと照らして、正の相関があるかどうかを回帰分析で調べていったのです。

当時からオーバーチュアの提携パートナーにYahoo Japan!があったので、オーバーチュアのデータにはYahoo Japan!のデータも含まれており、調査するには十分なデータを保持していました。

2004年当時のオーバーチュアは急成長している時期で、深夜まで残って仕事している社員が多かったです。私も、通常業務が終わるのは夜10時ぐらいというのが平均でした。通常業務が終わった後に、リストアップしたキーワードの日別検索数の推移をオーバーチュアのデータベースから抽出し、テレビCMのGRPデータとの相関を調べていきました。

オーバーチュアのデータベースからデータを抽出するのに意外と時間がかかり、テレビCM1本の分析を終えるのに数時間かかりました。そのため、午前3時〜4時ぐらいまで作業して1日あたり数本というペースで調べていったのです。

投下量に連動して検索数は増えない!?

調査を始める前は、10本ぐらい調べればテレビCMと検索数の相関を示すことができるだろうと、甘い考えを持っていました。しかしながら、いくら調べても、テレビCMの投下量に連動して検索数が増えているケースが出てきませんでした。

約2週間、毎日午前3時から4時頃まで一人オフィスに残り、黙々と作業を続けていました。20本を超えたあたりで、私は、もう、諦めていました。「これはダメだな。このやり方ではいい結果はでないんだ」と。

「テレビCMを見て検索している人もいるハズだ」という考えは変わっていませんでしたが、「回帰分析で統計的に有意な結果がでるほどは影響していなんだ」とすでに諦めていました。ただ、せっかく総合広告代理店の人たちが協力してくれたので、最後まで調べて、その調査結果を資料にまとめてお返ししないとならない。そんな義務感に駆られて、残りの調査を続けたのです。

残り3本になったときでした。テレビCM1本あたり、30個から50個のキーワードのデータを抽出し、それを加工してキーワードごとにチャートを作っていました。

約30本のテレビCMを対象に、その時点ですでに1000個以上のチャートを作り、すべてがダメな結果となり、さすがにウンザリしていたときです。

「パケ・ホーダイ」の綺麗な相関関係

意気消沈して諦めていた矢先、光が射したのです。綺麗に正の相関を示すテレビCMとキーワードが見つかったのです。もうダメだと思っていたので、自分でも目を疑いました。

それは、NTTドコモの「パケ・ホーダイ」です。「パケ・ホーダイ」は、2004年3月24日に報道発表のリリースがあり(当時のリリースがウェブサイトに残っています。こちら)、2004年6月1日にサービスを開始していました。そのサービスの宣伝のためにテレビCMを投下したのです。

ハッキリは覚えていませんが、たしか、5月の半ば頃から6月前半にかけて大量にテレビCMを投下していました。「パケ・ホーダイ」という言葉は新しくできた造語だったため、リリースが出た3月24日以前の検索数はゼロでした。世の中に存在しなかったキーワードなので当然です。

リリースの日を境に検索数が発生します。ただ、リリース直後の検索数は本当に数少ないものでした。それが、5月半ばのテレビCM開始と同時に爆発的に伸びていきます。しかも、日別のテレビCMの投下量(GRP)と連動して検索数も増加していったのです。そして、テレビCMの投下量がピークに達すると検索数もピークに達し、徐々に減少、テレビCM終了後しばらくして検索数もゼロに近づいていくという推移でした。回帰分析をしなくても、グラフを見ただけで、誰が見ても相関していると思える結果でした。

テレビCM約30本の調査を終えて、結局、正の相関を示すことができたのは、この「パケ・ホーダイ」1本だけでした。調査結果を資料にまとめて、総合広告代理店のメディアマーケティング部の人に持っていきました。

私は、1本だけしか良い結果を得られなかったので、調査結果が好意的に受け止められるかどうか不安でした。しかし、その人は非常に前向きに捉えてくれたのです。「1本でもあれば十分ですよ。テレビCMの投下によって検索数が増加しているケースが見つかったんだから」と評価してくれました。

新しいものは広告効果が高くなる

そのとき、その方に教えてもらったのですが、新商品や新サービスは一般的に広告効果が高くなる傾向があるとのことでした。つまり、「パケ・ホーダイ」は新サービスなので、その傾向に合致していたのです。

これは、いわゆるプロダクト・ライフサイクル理論でいう導入期の商品やサービスということになります。導入期→成長期→成熟期→衰退期という4つの段階の中で、最初の導入期は商品の認知を高めるために広告宣伝費がかかるということなのですが、それは、導入期にきちんと広告を打つことが大事だということも意味しています。

その後にさらに調査して分かったことですが、新商品や新サービスは、テレビCMの投下と検索数が綺麗に相関するケースが多いのです。あるいは、テレビCMで新しいキーワードを訴求した場合も、検索を誘発しやすいようです。

「パケ・ホーダイ」は新しいキーワードであり、テレビCMが投下される以前はほとんど検索数がなかったことがポイントでした。当時、「トヨタ」や「ユニクロ」などのキーワードは、月間平均で100万回〜200万回という規模で検索数が発生していました。そのような場合、テレビCMの投下によって、仮に月間10万回の検索数を誘発していたとしても、元々の母数が大きいので、テレビCMの投下が影響しているのか、季節変動なのか、それ以外の何かが影響しているのか、見極めるのが難しいのです。

極端にいえば、月間10万回の変動も誤差の範囲になってしまいかねないのです。このことが、テレビCM約30本を調べても良い結果を得られなかった主な理由だったと思います。

分析に最低限必要な投下量とは?

このときの簡易的な調査では、テレビCMが投下された期間(2週間から3週間程度のものが多かったように記憶しています)を対象にして、前後3ヶ月ぐらいの検索数のデータを調べていました。

このやり方では、「パケ・ホーダイ」のように分かりやすいものしか良い結果を得ることはできません。オフラインアトリビューション分析に関わるようになって分かったことですが、たとえば、1年以上の期間に渡るデータを取得して、テレビCMのGRPと検索数やウェブサイトへのアクセス数などを調べると、より良い結果を得ることができるようです。

また、これも後で分かったことですが、テレビCMの投下量も一定のボリュームがないと、なかなか良い結果を得られないようです。

先日も、ある通販会社の人から「テレビCMを投下してもあまりウェブサイトのアクセスが増えたようには思えないんです」と相談されました。データを見せてもらうと、3ヶ月で2000GRPほど、月間平均では700GRPぐらいのテレビCMを投下していました。しかも、とくに新しい商品やサービスはなく、新しいキーワードがないためブランド名を訴求している状態でした。

予算などの懐事情もあるとは思いますが、これまでの経験では、月間2000GRP以上ぐらいのテレビCMを投下しないと、あまり良い結果は得られません。そして、できれば、新しいキーワードがあると良いのです。

はっきりは覚えていませんが、約30本のテレビCMのうち、半分ぐらいはGRPの投下量がそれほど多くなかったと記憶しています。投下量の少ないことも、あまり良い結果が得られなかった理由だったと思います。

話を戻します。「パケ・ホーダイ」の例は、メディアマーケティング部の人に指導を受けながら事例としてまとめ、総合広告代理店の社内用資料を作成しました。その資料をもって、インターネット関連の部署へ説明に回り、部会などで報告させてもらったりしました。

“ぶら下がり”でキーワードを出してみることに

それからしばらくして、インターネット関連の局の局長代理の方から声をかけられたのです。「有園さん、今度、ぶら下がりでキーワードを出してみることになったよ」。私は、「えっ、ぶら下がりって何ですか?」と聞き返してしまいました。どうやら、ぶら下がりとは、テレビCMの最後1秒ほどのことで、そこにキーワードを表示させるということでした。

トヨタist「ほっぺの理由」

それは、トヨタistのテレビCMでした。2004年9月10日頃が最初だったと思いますが、「ほっぺの理由」というキーワードをテレビCMの最後に表示して、リスティング広告でそのキーワードを入札したのです。

はじめてテレビでこのCMを見たときは、さすがに熱いものが胸にグッと込み上げてきました。そのぐらいの達成感がありました。

トヨタistのテレビCMは、たしか、8月から流れていたのですが、期待したほどウェブサイト側にアクセスが流れてこないということで、テレビCM内でキーワードを表示させてみることになったようです。

リスティング広告と連動させる試みは、最初は1ヶ月ほどの予定でしたが、それなりに評価されたようで、その後も延長して3ヶ月以上続いたと記憶しています。いわゆる、テレビCMとリスティング広告を連動させた(マス連動の)最初のケースだと思います。

三井不動産「芝浦の島」

翌年の2005年3月頃だったと思いますが、三井不動産のマンションのテレビCMで「芝浦の島」というキーワードをテレビCMに表示して、リスティング広告と連動させるというキャンペーンがありました。(私が担当していた総合広告代理店とは異なる総合広告代理店の仕事だったため、私はこの仕事には関わっていません)

NEC「Nを追え」

その後、NECの携帯電話のキャンペーンで「Nを追え」というキーワードをテレビCMに表示して、テレビCMとリスティング広告の連動がおこなわれました。このあたりから、かなり話題になり、このマス連動の手法は一気に普及していきました。

偶然の出来事に導かれて

2005年8月に、2つの総合広告代理店から、テレビCMやその他のマス広告の投下量と検索数の関係について本格的な調査を依頼され、先日の「MarkeZine(マーケジン)」の記事「テレビCMの投下量と検索数、そして売上げとの相関関係は?オフラインアトリビューションの基本【アトリビューション編:第6回】」で書いたような、オフラインアトリビューションの仕事につながっていったのです。

偶然の出来事から導かれて、マス広告と検索の相関に興味を抱き、今に至りました。次回は、これまでの経験で学んだことや思考についてお話したいと思います。

アタラ合同会社
取締役COO
有園 雄一(Yuichi Arizono)
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