オフラインアトリビューション

オフラインアトリビューション

用語: オフラインアトリビューション
英語: offline attribution

テレビCMなどのマスメディア、オンライン以外のデータもも対象にしてアトリビューション分析を行うこと。

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関連語:オンラインアトリビューション
参考URL:
http://www.attribution.jp/000237.html
http://www.attribution.jp/000230.html

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アトリビューション特別対談: 経営には統計の知識とアトリビューション的思考が必須 – ブレインパッド吉沢雄介氏×アタラ有園

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有園:今回は、株式会社ブレインパッドの吉沢雄介さんをお迎えして、オフラインのアトリビューションについて伺います。

吉沢:株式会社ブレインパッドの吉沢雄介です。ブレインパッドは設立して10年弱の、データ分析及び関連サービスを専業にしている会社です。ビッグデータやデータサイエンティスト、昔だとデータアナリストという肩書でしょうか?といった言葉が世の中で認知される前から、「これからはデータ分析の時代がくる!」と予見して設立された会社です。

現在、社内には50人強のデータサイエンティストがいて、日々、データ分析の業務に従事しています。私自身は大学院を卒業後、データサイエンティストとしてブレインパッドに入社しました。最初に有園さんと出会ったのは今から3年ほど前だったと記憶しています。その後、有園さんとは約20社のクライアント様にアトリビューション分析を提供してきました。

有園:アタラでアトリビューションの分析、コンサルティングを開始した頃、広告主からデータをもらって自分たちで分析していました。でも、大きなデータ、たくさんのビュースルーコンバージョンを計るようになると、普通のパソコンではデータボリュームがおおき過ぎで分析できない、パソコンがとまってしまうという現象が起こりました。「アタラでデータサーバを買うのはちょっと違うよなぁ」とブレインパッドの社長である草野さんに相談して、お手伝いをお願いしてから4年目くらいになるでしょうか。

アタラがアトリビューション分析をする際、データの集計と分析のコアな部分はブレインパッドさんにお願いしています。そこに深い洞察を加えて広告主へ提出し、メディアプランへの落とし込みやコンサルティング、その他のフォローがアタラの仕事です。ブレインパッドさんとのはじめてのプロジェクトでお会いしたのが吉沢さんでしたね。

吉沢:そうでしたね。

ブレインパッドさんとの取り組み

有園:最初に吉沢さんにお願いしたのは、あるクライアントのサイトカタリストからコンバージョンパスデータを抽出してもらって、それを出稿データと紐付ける作業だったと思います。リスティング広告だと、キーワード別に出稿しているデータとサイトカタリストで取れているデータは別なので、各データを合体させて紐づける作業をブレインパッドさんにお願いしたんですよね。

吉沢:そうでしたね。アタラさんと一緒に取り組めて良かったことは、リスティング広告の出稿や運用経験に長けていらっしゃるので、分析結果という紙で終わらず、施策に落とし込みPDCAを実際に動かせるという期待がありました。

有園:いつもありがとうございます。ところで、最初の頃はリスティング広告とバナー広告の出稿データを使って、いわゆる、オンラインアトリビューションをおこなっていました。ただ、やはり、オンラインのデータだけで分析していてはダメだな、と当初から思っていた訳ですが、そのあたりは、吉沢さんも同じですよね?

吉沢:ウェブサイトは、広告主と消費者のコミュニケーション手段、ブランド体験の一部分でしかありません。テレビや新聞、ラジオ、雑誌や交通広告など、いろいろな影響を受けて消費者は動いています。オンラインだけでは見えないことがあります。マスメディアを含め、いろいろな媒体に分析範囲を拡張するという認識や方向性は以前から考えていたことであり、社内でも方法論として模索をはじめていました。

有園:以前は、アタラからの依頼は、オンライン、ネット広告だけのアトリビューションがメインでした。でも、マス広告などの影響が加味されない形でコンバージョン予測を出しでも、どうなのかなって思っていたわけですね。

吉沢:はい。

アトリビューション2つの方法論

有園:徐々に、オフラインのアトリビューションにも仕事の領域が広がっていきましたが、吉沢さんとは、オンライン、オフラインと、アトリビューションについてディスカッションしてきました。オフラインのアトリビューションは、特に高度な統計知識とデータを処理できるシステムが必要となってくることもあって、ブレインパッドさんのデータサイエンティスト抜きでは難しいですね。

吉沢:現在、方法論としてこのような段階にきています(Fig.1)。ここまでくるのに2年から3年くらいはかかりました。

(Fig.1)

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この方法論には2つのポイントがあります。1つ目は、たえず議論している「マスメディアの効果をどのように定量化し、実行施策に結び付ける示唆を出すか」という分析そのものに関する考え方。2つ目は、marketingQED(マーケティングキューイーディー)という分析ソフトウェアの取り扱いを開始したことです。

marketingQED社は、イギリス・ロンドンに本社を置く、最適なマーケティング意思決定を支援するソフトウェアベンダーで、分析ソフトウェアを提供しています。弊社は、2年ほど前にmarketingQED社の販売パートナーになり、海外の最新事例、考え方や分析手法などを日本市場に合った形で提供しています。マーケティングミックスモデルの実現手段の提供です。

モデルとは?

有園:オンラインのアトリビューション分析をしていても、均等配分モデルといった言葉が出てきます。モデルをつくる、モデリングする、あるいは抽象化といった言葉は、統計学の勉強をしていない人にとって理解しにくいものです。簡単に説明していただけますか。

吉沢:こちらをご覧ください(Fig.2)地図、例えばグーグルマップをイメージしてください。渋谷、六本木という場所があっても、地図に「ここが渋谷です」「ここが六本木です」と書いていなければ、どこか渋谷で、どこが六本木か分かりません。抽象化、モデル化するというのは、どこが渋谷で、どこが六本木か書いてあって、経路が線で結ばれていることです。渋谷から六本木へ行く最短距離を示し、余計な情報はそぎ落とすことが抽象化、モデル化です。

(Fig.2)

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有園:現実の世界は複雑なので、すべてを把握することは不可能です。把握するには、何らかの視点で現実を単純化して切り出していることが「モデル」、切り出すことを「モデル化する」、あるいは、「モデリング」という、そんな意味でよろしいでしょうか。

吉沢:その理解で大丈夫です。

有園:本来、人間が、現実の世界を目で見たり、耳で聞いたり、手で触ったりして得ている情報は、現実ではなかったりしますからね。そもそも、人間は現実をすべて把握することはできません。人間が見ている世界は、人間の眼が作り上げている仮の像でしかありません。仮の像をつくっているのが、人間の眼がもっているモデル化する仕組みですね。

マーケティングミックスモデルの3つのステップ

吉沢:例えば、マーケティングミックスモデルは、マーケティング施策への投資・露出と売上・店舗来店といったマーケティング活動とお客様の行動との因果関係をモデル化することです。

マーケティングミックスモデルのステップは3つです。1つ目は、アトリビューション、2つ目は予算配分の最適化、3つ目はシミュレーションです。アトリビューションは、貢献度の割り振りが困難なもの、例えばTV、ディスプレイ広告のビューなどの効果を「見える化」して、貢献度を定量化することです。

有園:貢献度を各媒体や、ものによってはキーワード別に、テレビCMやバナー広告だったらクリエイティブ別に、それらが売り上げやコンバージョンにどれだけ貢献しているのか数値化することですね。

すべて同じ軸で比べられる指標に

吉沢:ポイントは、すべて同じ軸で比べられる指標にすることです。金額は1円単位で数値化し、ウェブ広告やテレビCM、紙広告など、あらゆる媒体で比べることができます。その軸で、いくら投資したら、いくら獲得できるかを「見える化」するのがアトリビューションです。それが決まると、貢献度のバランスから、どのメディアに、いつ、どの配分で投資したら成果が最大になるのかを考えられます。

感覚として、リスティング広告に月額1千万円、テレビCMに月額1億円をそれぞれ投資することはできても、ドラスティックに配分を変えてリスティング広告に月額10億円を投資することって、なかなかできないと思います。でも、アトリビューション分析をしていれば、理論的な配分を導きだせます。リスティング広告に月額10億円投資すべき理由があれば、投資することもできるでしょう。

有園:ちなみに、会社全体としてはリスティング広告に月額10億円ぐらい使っているクライアントはありますね。

予算配分の最適化

吉沢:はい、確かにありますね。次は、予算配分の最適化について。これで、理論的に最適な配分を出すことはできます。やることは簡単で、既にアトリビューション分析でモデル式が出来ているので、最適化計算をコンピュータに任せるだけです。

アトリビューションと予算配分最適化は理論的なことですが、予測シミュレーションはシナリオに即して売上に思いを巡らすことです。この3つをぐるぐる回すことでマーケティングROIが改善していきます。手法的なアプローチと、ビジネス的なアプローチを統合したのがこの方法論です。

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オフラインアトリビューションとは

有園:日本では、これをオフラインアトリビューションと呼んでいます。アメリカの業界トップのマーケットシェアという会社はオフラインアトリビューションのことを単にアトリビューションと呼んでいますが、その他のリサーチ会社などは、マーケティングミックスモデリングをアトリビューションと呼んでいたりします。あるいは、アナリティクス2.0という表現もありますね。これらは、アトリビューションや予算のアロケーション、シミュレーションなどを指しています。

インターネット業界でアトリビューションという言葉が流行ったので、便乗してマーケティングミックスモデリングのことをアトリビューションという言葉で語っているのではないかと思います。

マーケティングミックスモデリングという名前で、かなり前からオフラインのアトリビューションの考え方はあるんですよね。

吉沢:2013年7月号ハーバード・ビジネス・レビューのマーケットシェア社の寄稿にもあるとおり、オフラインのアトリビューションという方法論は2000年初期頃からありました。IT技術の進化に伴い、分析コストが安くなったため、ビジネス分野、マーケティング分野でも利用できるようになってきました。有名なのがワコビアの事例です。2008年11月のハーバード・ビジネス・レビュー日本版に載っています。2002年、2003年頃、予算の使い先としてのウェブは今とは比べ物にならないくらい小さかったはずです。当時からすでにオフラインの事例はあって、研究もしつくされてきました。そしてここ5年から6年でネット広告に対する投資が増えてきましたが、この枠組みにどう取り組んでいくべきか、完全には答えが出ていないと思います。

有園:なるほど。

吉沢:リスティング広告などネット広告にお金をかけていても、テレビCMなどと同次元では並べられません。配分を決めるとき、どう扱ったらよいのか。あとは、ソーシャルメディアを従来のマーケティングミックスの中にどう落とし込んでいくかも課題です。

テレビCMを出稿した結果の調査や分析

有園:テレビCMを出稿した結果の調査や分析は昔から行われていました。Swimlane(スイムレーン)と言われる縦割り的な、テレビはテレビだけ、ラジオはラジオだけ、新聞は新聞だけ、といったレスポンス、効果の分析が主流でした。2000年以降、マーケティングミックスモデルなどで分析できるようになったのは、統計ソフトが良くなったからですよね?

吉沢:そこも大きいと思います。

有園:統計学の進歩もあると思います。構造方程式モデリングや共分散構造分析といった、テレビCMを出稿したら人はどういった行動をとるのかを計算させる統計ソフトも、昔は高くて簡単にできるものではありませんでした。でも、2000年以降は実務レベルで使えるようになりました。先ほど話に出たmarketingQEDで、モデルはデフォルトでも数千くらいつくると聞きました。昔はモデルを1個つくって計算するのにも高いお金がかかりました。しかも、モデルを1個つくって1回目の分析で出てくるのが、統計学的に「当てはまりがよい」と言われる有意な数値、理論的にも現実をよく表した数字とは限りません。でも、分析を2回やるとなるとまたすごいお金と時間がかかっていたのが、2000年以降にIT技術の進歩やサーバーの容量が大きくなって大量のデータの分析結果が、ボタン1個でほんの数分でかえってくるようになりました。数千個のモデルだと?

吉沢:30秒から1分くらいで数千のモデルが出てきます。その中から統計的に良いものをサジェストしてくれます。

有園:数千のモデルなんですね。そういったことができるようになったので、実務で使えるようになったということですね。

計算コストの低下

吉沢:はい、大きな進歩です。ブレインパッドでは、marketingQEDというマーケティングミックスモデリングに特化した分析ソフトウェアを取り扱っています。モデルも1個作ったら終わりではありません。分析的な視点とビジネスの視点両方を加味して、最適なものを選ばなければなりません。計算コストが下がったおかげで、それが速くできるようになりました。

marketingQEDは、遺伝的アルゴリズムを採用しています。1秒間から10秒間に、数百から数千のモデルを自動的につくることができます。その中から、統計値をつかって最良なものを選べます。マーケッターや我々のような分析官が考えることは、いかに現実に則しているか。そして、施策への落とし込みができるかどうかです。分析そのものではなく、よりビジネスへの適用について考える時間が増えました。

専門家のためのツールから、一般のマーケッターが使うツールにまで広がってきたので市場も広がり、MarketShare(マーケットシェア)やThinkVine(シンクバイン)といった専業の会社も出てきました。我々も時間がかかってしょうがなかった部分がミニマムになり、ビジネスになってきました。クライアントもそれにお気づきになり、引き合いも増えています。

ソーシャルメディアをどうモデルに取り組むか

有園:さきほど、オフラインのアトリビューションやマーケティングミックスモデルを回す際の課題は、ソーシャルメディアをどうモデルに取り組むかだとおっしゃいました。投下金額に対するゴール、目的変数が売り上げだった場合、ソーシャルメディアの拡散は投下金額に直せないから課題なのでしょうか?

吉沢:それも1つですね。特に難しいと感じていることは2つあります。1つ目は、おっしゃる通り、ソーシャルメディアは金額換算が困難なのでROIに落とし込みにくいということ。2つ目は、カスタマージャーニーという言葉ですべて表されているかもしれませんが、いまは昔よりも消費行動が複雑になっていることです。売り手と買い手の情報の非対称性が完全に崩れたのも忘れてはいけないポイントですよね。テレビCMを見て、続きはウェブでという古典的な話もありますが。

有園:え!古典なんだ!(笑)

吉沢:どうでしょうか(笑)。有園さんも関わっておられたとお聞きしていますが、直の購買ではなく、間接的により商品を理解してもらう、競合優位性をアピールするという点で、ワンクッション設けるようになりましたよね。

有園:それがモデルに入ってきたのは最近ですね。

吉沢:さきほど紹介した事例は、そういったワンクッションを意図的に設けるといった概念がほとんどなかった頃のものです。

有園:ワコビアの事例ですね。

吉沢:投資と売り上げという2つの関係ならモデル化も単純でしたが、構造的に因果の仮説として、ネット(広告)が間に入ったとき「真ん中はどうやってモデル化したらよいんだろう」というのが課題です。

重回帰分析とは

有園:重回帰分析で、なんでもやってしまう時代がありました。ワコビアの事例も重回帰分析をしていますか?

吉沢:おそらく、一部分ではそうだと思います。

有園:重回帰分析は、説明変数と目的変数。説明変数が複数あり、それに対する目的変数が1個あるという単純な形で数字を入れて、あとはソフトウェアが計算してくれる感じだったと思います。アナリストが分析する前に、ある程度の因果関係を想定してモデルを作らなければならない点で、取り扱いが難しいということでしょうか。

吉沢:そのとおりです。有園さんがおっしゃっているのはここで(Fig.3)古典的なマーケティングミックスモデルは、この重回帰という手法をつかっていました。これはいくら投資するかといった予測には向いていますが、因果関係の理解は難しい。ウェブの行動は多階層の分析が必要になります。統計的にやれば、もっともらしいものが出るだろうと思われるのですが、ここまでくると難しいです。自然検索でも良かったり、リスティング広告でも良かったりと甲乙つけがたい、判断しづらいことが出てきます。手法やマーケティングが進んでも、分析の精度や納得感は腑に落ちないのです。

(Fig.3)

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クローズドループマーケティング

有園:「インターネット・マーケティングの原理と戦略」(日本経済新聞社)という本があります。スタンフォード大学の教授が90年代後半に執筆した本です。

この中で、たとえば、テレビCMを投下したら、それに接触した人が何パーセントかいて、接触した人のうち、認知した人と認知していない人がいるわけですが、認知した人のうち、すぐに店頭へ行く人がいれば、なにも行動しない人がいます。いまだったら、インターネットで検索してネットに行く人がいますね。このように分かれていって、広告に接触したユーザーの行動は、どのようなものがありえるかをツリー構造で整理して、それぞれ何パーセントになるかなどをみていく、という方法論が書いてあります。

これを応用していくと、たとえば、ウェブマーケティングのPDCAを回すときに、ボトルネックはここだから、この点を何パーセント改善するために、クリエイティブを変更すべきなのか、投下量を変えるべきなのか、タイミングの問題なのか、ターゲティングの問題なのか、といったことを割り出すようなことが理論的には可能になることが分かるんです。

そのなかで、クローズドループマーケティング(Closed loop Marketing)ということが書かれているんです。クローズドループというのは、テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、ネットなど投下したものがいろいろあり、接触した人がいろいろな行動履歴をたどって最終的にゴールである、広告主側の売り上げに戻ってくる。この流れの中で、広告主が売上をあげるために出したお金、仮に100万円出したとしましょう。それが、ループをたどって最終的に売上として広告主の元に戻ってくることが売上で、ひとつひとつのループがクローズして広告主の元に戻ってくるということを、きっちりやっていかなければならないと説かれています。

吉沢:大きくなって返ってこなければ意味がないですよね。

有園:100万円つかって100万円戻ってきたのではダメですね。たとえば、1,000万円以上ぐらい売上がかえってくるのがよいですね。そのようなクローズドループができるのがネットだと、そんなことがその本には書かれています。インターネットマーケティングの基本は、それができることで、それができるようにきっちりオペレーションすべきだと私は解釈しました。

まったくそのとおりだと思うのです。インバウンドマーケティングと呼ぼうが、アウトバウンドマーケティングと呼ぼうが、アウトバウンドしたものがインバウンドでかえってきて、広告主のお財布に戻ってこなければ意味がありません。そういったループ、あるいはカスタマージャーニーが、ネットの登場によって複雑になっています。構造化して統計的に分析して、結果的に戻ってくるということを、モデルにするのが難しい。それが課題なのかなと思っています。

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ループがクローズしていますか?

吉沢:インターネットがクローズドループの重要なポイントだと思います。それがなければ、ループではなく壁打ちでしょう。

有園:うまいたとえですね。

吉沢:そこに時間軸が加わり、なおかつタッチポイントが増えているので、モデル化が非常に難しいんです。

有園:「ネットだったらできる」という解釈を私はしていたのですが、マーケティングミックスモデルを使えば、基本的にはモデルさえ上手く作れれば、ループがクローズするような形で、どのポイントで、どこの広告出稿を増やせばよいかが分かりますね。

ループをクローズさせる3つの条件

吉沢:ただし、条件が3つあります、などと、条件は必ずついてくると思っています。

1つ目は、「データが溜まれば」という前提が、常につきまといます。現状はその段階で止まっています。

2つ目は「スピード」です。広告主はいかに早くデータを溜めて、分析して、理解できるかが非常に重要になってきます。先週のデータについて1カ月後に分析結果を出しても意味がないので。

最後は「社内組織」です。データを溜ためるスピードと活用の意思決定、いろいろなことを早める体制はリアルなところで最も厳しい成約条件となります。この3つに注意することが重要です。

クライアントには、この3つをセットで理解してもらえるよう、ツールの導入と同じくらいにご説明しているところです。

有園:なるほど。

吉沢:そこまでやらないと、marketingQEDも活かせません。

DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)

有園:最近、DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)という言葉でいろいろなことが語られています。いわゆる宣伝広告費もマーケティングミックスモデルを回すためには、テレビCM、新聞、雑誌、ラジオ、ネットの投下量がデイリーで過去2年分くらい残っているとやりやすいですね。DMPという形で入れていくのがよいですか?

吉沢:そうですね。これはルール、仕組みだと思っています。たとえば、iPhoneアプリで健康管理ツールがあります。何を食べたとか、何時間眠ったとか、体重とかを記録します。

有園:つかっているんですか?

吉沢:つかってます(笑)。あれは結局、「見える化」しているんです。そのときだけを見てもしょうがなくて、過去の推移から、何を食べたらどうなるかを押さえることが大事なんです。企業のデータも同じです。今日のことを考えがちですが、過去の連続が今です。過去のデータを貯めていくことをルール化して、健康管理だったらアプリになりますが、ビジネスのデータ蓄積だとDMPみたいなものになるのかなと思います。

有園:体重アプリをつかって痩せたんですか?

吉沢:一瞬、痩せますね。Fitbitもつかっていたんですが、途中でなくしてしまいました。そしたら体重も増えましたね(笑)

有園:そうですか(笑)。計れないものはマネージできないということですね。DMPというと、サードパーティクッキーの話がでます。オフライン広告のデータなどは、そこに入れてCRMに取り込んで、マーケティングミックスモデリング用の分析データも蓄積したほうがよいですね。

吉沢:そうですね。

有園:スピードに関しては、おっしゃるとおりです。できるだけ早く分析結果がかえってこないと、アクションに移しても意味がない、遅い、ということになるので。社内組織は今後ますます課題ですね。ひとつのブランドであっても、あるテレビCMの担当者は自身の携わっているキャンペーンの投下量は把握していても、隣の席の人が担当している別キャンペーンの投下量は知らなかったり。同じテレビCMでもそうなので、雑誌や新聞、ラジオやネットなど他のメディアのことは、なおさら把握していない状況でしょう。マーケティングでの投下金額は、ほとんどバラバラに管理され、統括されていないのが現状です。

Swimlane(スイムレーン)と言うのがまさしくそのとおりで、自分は平泳ぎしていたけれど、横の人はクロールしていて早く行ってしまったというようなことが現実に起きています。自分たちはクロールで必死に泳いでいるけれど、自社の他部門の人は背泳ぎしていた、泳いでいなかったということがよくあります。他の担当から見ると「なんでそんなことやっていたの?」と言われるような議論が生じます。「見える化」する、共有することは大事ですね。

吉沢:そうですね。

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予測シミュレーション

有園:marketingQEDでは、たくさんのモデルがつくれているわけですが、実際にはどのくらいつかえるレベルですか?予測シミュレーションはどのくらいあっているのですか?

吉沢:マーケティングミックスモデルの3つの要素のうち、予測シミュレーションに関わってくることですが、精度の追及をマーケティングの領域で求め出すと非常に難しいです。絶対的な正解を出しているわけではありませんし、出た示唆で実際にマーケティングミックスを変えて投下すると、現実を変えてしまうことになります。精度は統計的に担保されていれば十分です。マーケティング分野に限っては担保されるか、されないかの二軸でしかないと思います。

大切なことは、いかに予測シミュレーションの結果をビジネスに落とし込み活用するかです。予測して、ベストな予算と配分でも、目標の売上に達することができないという事実が出たときに、このまま積むのか、やめるのか、その判断こそが大事です。担当者レベルではなく、会社としての意思決定に、この結果を活かせるかどうかが最も重要です。5パーセント違うからもっと精度を高めようといった議論は、チャンスを逃している可能性があります。シナリオというか行動規範が作れるかが大事です。

有園:シミュレーションする数字がぴったり合うことはありませんね。

吉沢:まずありません。

有園:あくまで指針です。20億円の広告宣伝費があったとして、それを40億円に増やしたいと思っているときに、40億円に増やすことが統計的に正しい判断なのかを見たいときに役立つものです。あるいは、40億円に増やしたうちの媒体別アロケーションを、どういうふうに変えると過去のデータに基づいて適切なのかを判断する際に、指針として使ってくださいということですね。

指針もなく、前年と同じ金額、あるいは会社の業績が30パーセント伸びたので媒体別の予算も30パーセント増やすよりは、はるかに根拠もあって良いですね。実際、それで売上が改善する例が出てきています。

吉沢:おっしゃるとおりです。まったくテレビCMを出したことがないのに、テレビCMを出したらどうなるか予測シミュレーションすることは難しいです。一方で、新しい商品を出す際、過去の他商品のデータに基づいて、どのように商品が立ち上がり、どのように広告が影響するかを予測することは可能です。

有園:過去に別の商品でデータがあればということですね。

吉沢:そうです。あとは、業界に類似品があるというのが前提です。条件はつきます。なかには、統計よりは担当者の経験や勘を重視する声もあります。でも、そうした個人の経験や勘は、他人に腹落ちする形で説明できない点が課題です。マネージメントへの説明責任が果たせない、担当者が変わるときに引き継げない、そういう問題が生じます。誰にでも客観的に分かる共通言語が統計アプローチです。

(Fig.4)例えば、チーズの売り上げが3年分あり、日別でこのように売れています。「最近、売れ行きが良いな」と思ったとき、分析すると、たとえば3つの変数に分けることができます。3年間に渡る長期のトレンド。そして季節変動。チーズだったら秋から冬にかけて売れて、夏は売れない、とか。このトレンドと季節変動を取り除いたものが、マーケティングやコミュニケーション活動によって増えた売上です。アトリビューション、広告に限って話をしていますが、本来分析するときはトレンドと季節変動を除いた部分(「その他の変動」)を対象にします。分解して考えなければならないのに、できていないケースは多いです。みなさん、頭の中では分かっていて、加味されているのですが、やり方を他人に説明するのが難しいのです。でも、統計的なことは誰がやっても同じように分解できるのがメリットです。しかも、知識としてたまっていきます。それが良いですね。

(Fig.4)

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事業全体の投資のためにアトリビューション

有園:アトリビューションは、財務用語であると言う人がアメリカで出てきています。私がアトリビューションの仕事で企業の役員などにプレゼンすると、年間、広告宣伝費として使っている20億円を40億円にすべきか、それとも20億円の予算で、システムを構築したほうが良いのか、あるいは営業のスタッフを増やしたほうが良いのかといった経営全体のリソース配分の最適化に話が移ることがあります。価格戦略として価格を下げたほうが売上は上がるといった話も含まれてきますが、このようなケースが増えています。某商社からの相談は、グループ企業である保険会社に出資していて、出資の回収として、まずは、広告宣伝費からリアロケーションしたい、さらに事業としてどのように成長するかを見たいので事業全体の、つまり、広告宣伝費以外も含めた事業全体の投資についてアトリビューションをやりたいというものでした。ブレインパッドさんにもこのような相談は多いですか?

吉沢:多くはないですが、ありますね。

有園:実際に分析しているものはありますか?

吉沢:IT投資やヒューマンリソースの投資と比べることは難しいですが、CMOではなくCFOの視点での話はあります。marketingQEDのソフトウェア導入の事例です。資材調達、研究開発、ヒューマンリソース、マーケティング、これらへの投資がどの会社もトップ4になっているはずです。

資材調達は、要素を分解することによって原価が見えてくるので、比較的、投資対効果が見えやすくなってきます。研究開発はライフサイクルに応じた期限を設けると、ある程度のROIが見えます。ヒューマンリソースも労働に対して分配するための分母になるものは見えてきます。これらに比べて、マーケティングへの投資の効果は、見えるようで見えてきません。「テレビCMをやらないとブランド力が落ちますよ」と言われたら、CFOは「それなら数字で示してください」と言います。マーケティングの投資対効果を「見える化」するには、アトリビューションという大きな概念が必要となります。

アトリビューション分析を用いると、「マーケティング全体でどこにどれだけ投資して、どういう効率でどのように回収し、効果があることが分かり、最終獲得はウェブですがテレビCMも必要です」という説明ができるようになります。海外では、こうした事例はCMO向けであるとともにCFOが活用しているケースは多いです。グローバル企業であれば、国や地域で比べられます。国や地域の違いを考えることができ、グローバルROIとして全体的に底上げできるようになります。

経営にはアトリビューション的思考が必須

有園:費用対効果を意識して、投資の回収をはかっていくのは日本全体で必要なことだと思うのですが、現在はクライアント側に課題があると感じています。壁になるのが「分析結果がよく分からない」ということです。分かる人が見れば分かるけれども、統計学を知らない人には何をやっているのか全く分からないという話になります。ブレインパッドさんの方で良いソリューションを用意していたりしませんか?

吉沢:あります。marketingQEDは、統計の知識がなくてもユーザーフレンドリーな画面を見るだけで結果が分かります。ただ、マーケッターや分析結果を見る人は、基礎的な統計の知識は身に付けておいたほうが良いので、当社では実践的な統計の知識を扱う「データサイエンティスト入門講座」を開催しています。企業向けに講座内容のカスタマイズもおこなっています。日本では内製志向の企業が多いかと思いますが、ファーストステップは内製化にこだわらず、まずは外部をうまく使いながら知識を身に付けて、使いこなせるようになってから社内でやるのが良いと思います。

有園:アトリビューションや統計についてアメリカ人と話をしていると、日本との違いに驚かされます。アメリカの大企業の役員クラスは多くの人がMBAを取っていて、MBAの授業に統計やデータ分析があるので、統計に関する知識が身についています。でも、日本の場合は大企業の役員クラスであってもMBAを取っている人はそれほど多くなくて、統計を学んでいない人の方が多いでしょう。日本の大学で学ぶ統計学も、実務で使えるレベルではありません。経営陣の統計学の知識の差が、日本とアメリカの差ではないかと感じています。経営に関わる方は統計学を学んでいただくことで、アトリビューションへの理解、分析結果への理解が高まるのではないかと考えています。

吉沢:弊社の目標は持続可能な社会を作ることです。それを実現するのは、人、モノ、金を適正に配分することで、争いなく配分するには、分析的な視点が必要だと思っています。アトリビューションに関しても、経営に近い方に腹落ちする形で理解していただくことが重要になります。統計的な知識をもっていただいたほうがよいですね。経営資源の配分もある種のアトリビューションですので。

有園:経営者にはアトリビューション的思考が必須ということですね。ありがとうございました。

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【アトリ君の視点】有園も執筆に関わった「アトリビューション 広告効果の考え方を根底から覆す新手法」はオンラインアトリビューションを日本で初めて解説した書籍でしたが、オフラインアトリビューションも含め、手法論も含めた形で体系的に説明したものは初めてかもしれません。さらには事業全体のアトリビューションまで進んできており確かな進歩を感じることができました。ただ、課題は多く、「ループをクローズさせる3つの条件」で挙げられたポイントの改善が恐らくどの企業も必須で、組織運営上の各種問題と共に取り組まないといけないことがますます浮き彫りになったように思います。まだまだやることは多いですね!吉沢さん、今回はありがとうございました!

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テレビCMに検索キーワードが入るまで、そして、そこから学んだこと(前編)

この7月まで「MarkeZine(マーケジン)」で連載記事を書いていました。その連載の最後に書いた「テレビCMの投下量と検索数、そして売上げとの相関関係は?オフラインアトリビューションの基本【アトリビューション編:第6回】」という記事に関して、いくつか問い合わせや質問を頂きました。

自分としては、そんなに質問がくることは想定していなかったので少しビックリしていたのですが、ちょうどそのとき、ある総合広告代理店の人から「この記事の中で取り上げられたテレビCMと検索数の相関についての問い合わせは、いまだに広告主から多いのだが、総合広告代理店の中に検索からテレビまでを語れる人材が育っていなくて少々困っている」という話を聞きました。

そこで、私自身の経験から、マス広告と検索の相関に興味を抱いたきっかけや、そこから学んだことなどを書いてみたいと思います。

ひらめきは「ど忘れ」から

最初にこのアイデアを思いついたのは、ある体験がきっかけです。ある日、朝起きてすぐにパソコンに向かってインターネットをしていました。たぶん、二日酔いだったと思うのですが、頭がボーッとしている感じでした。

そのとき、関係者の方には大変申し訳ないのですが、「au」あるいは「KDDI」という名前を失念してしまい、なかなか出てこなかったのです。「あれ、あれだよ」と心の中で叫んでも、脳のシナプスがつながっていない感じで、思い出せないのです。思い出せないことにイライラしながら、とっさに思いついたのが「仲間由紀恵 ケータイ」というキーワードで検索することでした。

「仲間由紀恵 ケータイ」で検索

たしか、2002年のことだと思います。当時は、仲間由紀恵さんがauのテレビCMに出ていたんです。だから、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索すれば、そのテレビCMの広告主であるauかKDDIのウェブサイトが検索結果に出てくるだろうと期待しました。つまり、検索すれば「仲間由紀恵さんがテレビCMに出ているケータイブランド」を探せると思ったのです。

ところが、Googleで検索しても、Yahoo!Japanで検索しても、検索結果の1ページ目には出てきません。2ページ目に行っても、3ページ目に行っても見つかりません。やっと、5ページ目ぐらいになって、ちょっとだけそれらしき情報が出てきて、「あっ、そうだ。auだ」と思い出すことができました。

検索しても出てこない

このとき、自分が最初に思ったのは、「あー、残念だな。検索エンジン対策、ぜんぜんできてないな」ということでした。

ブランド名を失念してしまった自分が悪いのかもしれませんが、検索してもなかなか欲しい情報に辿り着けなかったことで、私はかなり気分を害していました。その結果、KDDIに対してマイナスイメージを持ったのです。「せっかく、こっちが検索して探しているのに、こんなに時間をかけないと見つからないなんて」と。

そして、次の瞬間。「同じような検索行動をしている人は他にもいるのではないだろうか」「テレビCMやその他の広告で得た情報やイメージを基にしてそのブランドを検索する人は他にもきっといるハズだ」。そう思ったのです。

テレビCMで検索ボックスを表示する

そのときです。テレビCMで検索ボックスを表示してキーワードを訴求すれば、そのキーワードを見て検索する人がいるのではないだろうか?同時に、検索エンジン対策として、そのキーワードでリスティング広告やSEOを施しておけば、検索した人を確実にウェブページへ誘導することができるのではないだろうか?と思いついたのです。

そうすれば、自分と同じようにテレビCMで得た情報に基づいて検索した人が、そのブランドのウェブサイトが見つからずにイライラすることもなくなるのでないか。それに、ブランド側もイメージを毀損せずに済むハズだ。ブランドに関連するすべての情報で検索エンジン対策を施せば、自分が経験したようにユーザーにイライラされて悪いイメージを持たれずに済むだろう。

このようにして、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したことをきっかけに、テレビCMやその他のマス広告に検索ボックスを入れるというアイデアを思いついたのです。

リスティング広告の知名度ゼロ時代

当時はまだ、リスティング広告について知っている人が少なかった時代です。

私は1990年代後半からサンフランシスコにあるインターネット検索ディレクトリの会社で働き、2000年に日本へ戻ってきたあともインターネット広告関連の仕事に携わっていました。そのため、日常的に仕事でもプライベートでも検索エンジンを使っていました。

それまでの経験から、「リスティング広告は必ず普及する」と思い、近いうちに、オーバーチュア株式会社(現、ヤフー株式会社)かグーグル株式会社に転職したいとも考えていました。

そのため、リスティング広告のことも、アメリカのウェブサイトなどを読んで独学していたのですが、実際に、その後、オーバーチュアとグーグルで働くことになり、テレビCMの投下量と検索数の相関調査の仕事をし、そのような企画に関わるようになるとは夢にも思っていませんでした。

つまり、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したときは、思いつきレベルでアイデアは浮かんだのですが、それを実現させようという意図はなく、しばらくは、すっかり忘れていました。

オーバーチュアに転職

私はその後、縁あってオーバーチュアに転職し、リスティング広告の拡販に従事するようになったのですが、ある総合広告代理店に対する営業を担当するまでは、そのときのアイデアを思い出すことはありませんでした。

オーバーチュア入社後しばらくして、総合広告代理店の担当営業になりました。総合広告代理店にリスティング広告を売ってもらうのが自分の仕事になったのです。2004年のことです。

リスティング広告を売ってもらえない!?

当時の総合広告代理店は、リスティング広告に限らずインターネット広告自体を積極的には取り扱っていませんでした。そのため、いくら説明して回っても、一部の人にしか興味を持ってもらえません。なかなか理解を得られません。総合広告代理店は何千人ものスタッフを抱えています。すべての人に説明して回るのは不可能に思われました。

「どうしたら、この人たちに興味をもってもらえるのだろう?」「どうやったら、この人たちにリスティング広告を売ってもらえるのか?」そのようなことを考えるのが日課になりました。

マス広告とリスティング広告のセット販売

そのときに、彼らが得意とするマス広告、とくにテレビCMとリスティング広告をセットで販売してもらえたら楽なんだけどな……という考えが浮かんだのです。そして、「仲間由紀恵 ケータイ」で検索したときの、あのアイデアを思い出したのです。

すぐに企画書を書いて、オーバーチュア社内で同僚や上司に見てもらいました。後になって、「マス連動」とか「テレビCM連動」と呼ばれるようになったのですが、そのときの企画書には、「テレビCMとリスティング広告のセット販売企画商品の開発について」というようなタイトルをつけた記憶があります。

そのようなセット販売を総合広告代理店にしてもらうには、テレビCMの投下量(具体的には、GRP:Gross Rating Point)と、そのテレビCMに関連するキーワードの検索数に正の相関があることを示さなければならないと思い、その相関関係を調査することも、企画書には入れておきました。

その調査でうまく正の相関が示せれば、テレビCMでキーワードを訴求すると同時にリスティング広告を広告主に買ってもらうというセット販売が可能になり、オーバーチュアの売上も上がるだろうと考えたのです。

それに、テレビCMと一緒にリスティング広告を語ることによって、総合広告代理店の人たちがリスティング広告に興味を持ってくれるかもしれないと、少なからず期待を抱いていました。

テレビCMを30本分析

オーバーチュア社内では上司からすぐにOKがでたので、アポを取り、企画書を持っていきました。どんな反応を示されるかまったく読めなかったので、内心はドキドキしていました。企画書を総合広告代理店のある方に見せたところ、「これは面白いかもしれない。ちょっと待って、メディアマーケにこういうのに興味がありそうな奴がいるので呼んでくるから」と言われ、しばらくすると、そのメディアマーケティング部の人を連れて会議室に戻ってきました。話はトントン拍子で進み、簡易的な調査をすることになったのです。

調査はまず、メディアマーケティング部の人が検索を誘発しそうなテレビCMを、たしか約30本選んでくれ、それらをすべて私が視聴することからスタートしました。

一般の視聴者がそれぞれのテレビCMを見たときに、検索しそうなキーワードをリストアップしていきました。だいたい、1つのテレビCMに対して30個から50個ぐらいのキーワードをリストアップしました。

たとえば、その企業名、ブランド名、サービス名、商品名、キャッチコピー、出演しているタレントの名前など。それらを掛け合わせたキーワード。それらの打ち間違いや変換ミスのキーワードなどです。

回帰分析で検索数とGRPの相関を調査

そして、リストアップしたキーワードの検索数を日別でオーバーチュアのデータベースから抽出し、調査対象のテレビCMのGRP日別推移データと照らして、正の相関があるかどうかを回帰分析で調べていったのです。

当時からオーバーチュアの提携パートナーにYahoo Japan!があったので、オーバーチュアのデータにはYahoo Japan!のデータも含まれており、調査するには十分なデータを保持していました。

2004年当時のオーバーチュアは急成長している時期で、深夜まで残って仕事している社員が多かったです。私も、通常業務が終わるのは夜10時ぐらいというのが平均でした。通常業務が終わった後に、リストアップしたキーワードの日別検索数の推移をオーバーチュアのデータベースから抽出し、テレビCMのGRPデータとの相関を調べていきました。

オーバーチュアのデータベースからデータを抽出するのに意外と時間がかかり、テレビCM1本の分析を終えるのに数時間かかりました。そのため、午前3時〜4時ぐらいまで作業して1日あたり数本というペースで調べていったのです。

投下量に連動して検索数は増えない!?

調査を始める前は、10本ぐらい調べればテレビCMと検索数の相関を示すことができるだろうと、甘い考えを持っていました。しかしながら、いくら調べても、テレビCMの投下量に連動して検索数が増えているケースが出てきませんでした。

約2週間、毎日午前3時から4時頃まで一人オフィスに残り、黙々と作業を続けていました。20本を超えたあたりで、私は、もう、諦めていました。「これはダメだな。このやり方ではいい結果はでないんだ」と。

「テレビCMを見て検索している人もいるハズだ」という考えは変わっていませんでしたが、「回帰分析で統計的に有意な結果がでるほどは影響していなんだ」とすでに諦めていました。ただ、せっかく総合広告代理店の人たちが協力してくれたので、最後まで調べて、その調査結果を資料にまとめてお返ししないとならない。そんな義務感に駆られて、残りの調査を続けたのです。

残り3本になったときでした。テレビCM1本あたり、30個から50個のキーワードのデータを抽出し、それを加工してキーワードごとにチャートを作っていました。

約30本のテレビCMを対象に、その時点ですでに1000個以上のチャートを作り、すべてがダメな結果となり、さすがにウンザリしていたときです。

「パケ・ホーダイ」の綺麗な相関関係

意気消沈して諦めていた矢先、光が射したのです。綺麗に正の相関を示すテレビCMとキーワードが見つかったのです。もうダメだと思っていたので、自分でも目を疑いました。

それは、NTTドコモの「パケ・ホーダイ」です。「パケ・ホーダイ」は、2004年3月24日に報道発表のリリースがあり(当時のリリースがウェブサイトに残っています。こちら)、2004年6月1日にサービスを開始していました。そのサービスの宣伝のためにテレビCMを投下したのです。

ハッキリは覚えていませんが、たしか、5月の半ば頃から6月前半にかけて大量にテレビCMを投下していました。「パケ・ホーダイ」という言葉は新しくできた造語だったため、リリースが出た3月24日以前の検索数はゼロでした。世の中に存在しなかったキーワードなので当然です。

リリースの日を境に検索数が発生します。ただ、リリース直後の検索数は本当に数少ないものでした。それが、5月半ばのテレビCM開始と同時に爆発的に伸びていきます。しかも、日別のテレビCMの投下量(GRP)と連動して検索数も増加していったのです。そして、テレビCMの投下量がピークに達すると検索数もピークに達し、徐々に減少、テレビCM終了後しばらくして検索数もゼロに近づいていくという推移でした。回帰分析をしなくても、グラフを見ただけで、誰が見ても相関していると思える結果でした。

テレビCM約30本の調査を終えて、結局、正の相関を示すことができたのは、この「パケ・ホーダイ」1本だけでした。調査結果を資料にまとめて、総合広告代理店のメディアマーケティング部の人に持っていきました。

私は、1本だけしか良い結果を得られなかったので、調査結果が好意的に受け止められるかどうか不安でした。しかし、その人は非常に前向きに捉えてくれたのです。「1本でもあれば十分ですよ。テレビCMの投下によって検索数が増加しているケースが見つかったんだから」と評価してくれました。

新しいものは広告効果が高くなる

そのとき、その方に教えてもらったのですが、新商品や新サービスは一般的に広告効果が高くなる傾向があるとのことでした。つまり、「パケ・ホーダイ」は新サービスなので、その傾向に合致していたのです。

これは、いわゆるプロダクト・ライフサイクル理論でいう導入期の商品やサービスということになります。導入期→成長期→成熟期→衰退期という4つの段階の中で、最初の導入期は商品の認知を高めるために広告宣伝費がかかるということなのですが、それは、導入期にきちんと広告を打つことが大事だということも意味しています。

その後にさらに調査して分かったことですが、新商品や新サービスは、テレビCMの投下と検索数が綺麗に相関するケースが多いのです。あるいは、テレビCMで新しいキーワードを訴求した場合も、検索を誘発しやすいようです。

「パケ・ホーダイ」は新しいキーワードであり、テレビCMが投下される以前はほとんど検索数がなかったことがポイントでした。当時、「トヨタ」や「ユニクロ」などのキーワードは、月間平均で100万回〜200万回という規模で検索数が発生していました。そのような場合、テレビCMの投下によって、仮に月間10万回の検索数を誘発していたとしても、元々の母数が大きいので、テレビCMの投下が影響しているのか、季節変動なのか、それ以外の何かが影響しているのか、見極めるのが難しいのです。

極端にいえば、月間10万回の変動も誤差の範囲になってしまいかねないのです。このことが、テレビCM約30本を調べても良い結果を得られなかった主な理由だったと思います。

分析に最低限必要な投下量とは?

このときの簡易的な調査では、テレビCMが投下された期間(2週間から3週間程度のものが多かったように記憶しています)を対象にして、前後3ヶ月ぐらいの検索数のデータを調べていました。

このやり方では、「パケ・ホーダイ」のように分かりやすいものしか良い結果を得ることはできません。オフラインアトリビューション分析に関わるようになって分かったことですが、たとえば、1年以上の期間に渡るデータを取得して、テレビCMのGRPと検索数やウェブサイトへのアクセス数などを調べると、より良い結果を得ることができるようです。

また、これも後で分かったことですが、テレビCMの投下量も一定のボリュームがないと、なかなか良い結果を得られないようです。

先日も、ある通販会社の人から「テレビCMを投下してもあまりウェブサイトのアクセスが増えたようには思えないんです」と相談されました。データを見せてもらうと、3ヶ月で2000GRPほど、月間平均では700GRPぐらいのテレビCMを投下していました。しかも、とくに新しい商品やサービスはなく、新しいキーワードがないためブランド名を訴求している状態でした。

予算などの懐事情もあるとは思いますが、これまでの経験では、月間2000GRP以上ぐらいのテレビCMを投下しないと、あまり良い結果は得られません。そして、できれば、新しいキーワードがあると良いのです。

はっきりは覚えていませんが、約30本のテレビCMのうち、半分ぐらいはGRPの投下量がそれほど多くなかったと記憶しています。投下量の少ないことも、あまり良い結果が得られなかった理由だったと思います。

話を戻します。「パケ・ホーダイ」の例は、メディアマーケティング部の人に指導を受けながら事例としてまとめ、総合広告代理店の社内用資料を作成しました。その資料をもって、インターネット関連の部署へ説明に回り、部会などで報告させてもらったりしました。

“ぶら下がり”でキーワードを出してみることに

それからしばらくして、インターネット関連の局の局長代理の方から声をかけられたのです。「有園さん、今度、ぶら下がりでキーワードを出してみることになったよ」。私は、「えっ、ぶら下がりって何ですか?」と聞き返してしまいました。どうやら、ぶら下がりとは、テレビCMの最後1秒ほどのことで、そこにキーワードを表示させるということでした。

トヨタist「ほっぺの理由」

それは、トヨタistのテレビCMでした。2004年9月10日頃が最初だったと思いますが、「ほっぺの理由」というキーワードをテレビCMの最後に表示して、リスティング広告でそのキーワードを入札したのです。

はじめてテレビでこのCMを見たときは、さすがに熱いものが胸にグッと込み上げてきました。そのぐらいの達成感がありました。

トヨタistのテレビCMは、たしか、8月から流れていたのですが、期待したほどウェブサイト側にアクセスが流れてこないということで、テレビCM内でキーワードを表示させてみることになったようです。

リスティング広告と連動させる試みは、最初は1ヶ月ほどの予定でしたが、それなりに評価されたようで、その後も延長して3ヶ月以上続いたと記憶しています。いわゆる、テレビCMとリスティング広告を連動させた(マス連動の)最初のケースだと思います。

三井不動産「芝浦の島」

翌年の2005年3月頃だったと思いますが、三井不動産のマンションのテレビCMで「芝浦の島」というキーワードをテレビCMに表示して、リスティング広告と連動させるというキャンペーンがありました。(私が担当していた総合広告代理店とは異なる総合広告代理店の仕事だったため、私はこの仕事には関わっていません)

NEC「Nを追え」

その後、NECの携帯電話のキャンペーンで「Nを追え」というキーワードをテレビCMに表示して、テレビCMとリスティング広告の連動がおこなわれました。このあたりから、かなり話題になり、このマス連動の手法は一気に普及していきました。

偶然の出来事に導かれて

2005年8月に、2つの総合広告代理店から、テレビCMやその他のマス広告の投下量と検索数の関係について本格的な調査を依頼され、先日の「MarkeZine(マーケジン)」の記事「テレビCMの投下量と検索数、そして売上げとの相関関係は?オフラインアトリビューションの基本【アトリビューション編:第6回】」で書いたような、オフラインアトリビューションの仕事につながっていったのです。

偶然の出来事から導かれて、マス広告と検索の相関に興味を抱き、今に至りました。次回は、これまでの経験で学んだことや思考についてお話したいと思います。

アタラ合同会社
取締役COO
有園 雄一(Yuichi Arizono)
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【News】Placedがモバイル広告と実店舗を繋ぐアトリビューションツールを発表

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ロケーションアナリティクスを提供等を提供しているPlaced(http://www.placed.com)より、モバイル広告と実店舗をつなぐPlaced Attribution(http://www.placed.com/attribution)というプロダクトが発表されました。スマートフォンを通してモバイル広告に接触し、その後広告主の店舗に訪れた人を計測できるツールです。

http://www.placed.com/press/placed-attribution-launch

Placed Attributionでできること
Placed Attributionが用いるデータはPlaced Insightsという製品で収集したものになります。Placed Insightsは、デバイスの位置情報を集めるアプリケーションをインストールした人々から構成され、Placedはその生のデータをもとにデバイスの位置を特定の場所に指定します。公式な発表によると一日に1億以上の位置を、10万人から集めることが可能になっているとのことです。

結果として得られるデータは主に以下の3つになります。

  • Store Visits(来店数)
  • Lift – Standard(リフト)
  • Audience Features(オーディエンスの特性)

Store Visitsではどの程度モバイル広告が実店舗へ貢献していたかを、Liftでは広告を出稿しなかった場合の予想値と実際の売り上げの比較を、そしてAudience Featuresでは実際に店舗まで訪れた人のデモグラフィック・ジオグラフィックなデータをみることができます。特性を見極めることで、より効果的なキャンペーンに活かせるとのことです。

Placed Attribution ではできないこと
このアトリビューションツールのではできないことのひとつとして、店舗まできたことはわかるものの、「実際に購入に至った」かどうかはわからないということがあります。業種によっては(ex.ファストフードチェーン)店舗にいくことがほぼ100%オーダーにつながるようにとらえることができるところもあり、現段階では業種による向き不向きが大きくありそうです。

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【アトリくんの視点】普段話している貢献度を分配するという意味のアトリビューションとは少し意味合いが違いますが、O2O、オフラインアトリビューションの文脈でとても興味深いですね。まだまだ発展段階のオフラインアトリビューションですが、このようなツールはオフラインの行動をどう測定するか、といったところで現段階で考えれるひとつのソリューションであると思います!

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